このような斬新なルックスは、キャットショーにおけるペルシャの標準となり、ステージで高い評価を獲得した。一方で、ペルシャは本来の形態や遺伝的出自からますます遠ざかっていった。
2007年12月に学術誌『Genomics』に掲載された、ネコ品種の遺伝的分析を行った論文によれば、モダン・ペルシャのルーツは、西アジアではなくヨーロッパにある。選択交配の積み重ねにより、モダン・ペルシャに遺伝的に最も近い品種は、ブリティッシュ・ショートヘア、アメリカン・ショートヘア、シャルトリュー(ブルーの毛色が特徴的な猫種)という結果になったのだ。
遺伝的な出自はさておき、モダン・ペルシャには、多くの愛好家が目を向けようとしない、暗い現実が隠れているのだ。
ぺしゃんこな顔がもたらす負の側面
モダン・ペルシャのペキニーズ顔は、美しさを意味するようになったが、同時に複合的な健康問題をもたらした。平坦な顔は、短頭症という、頭骨が短縮する構造異常の典型的な特徴であり、鼻腔の圧縮を伴う。短頭症は、ペルシャ特有の外見をつくる一方で、慢性的な呼吸困難の原因にもなる。
モダン・ペルシャは、しばしば短頭型気道閉塞症候群(BOAS)に苦しみ、いびき、喘鳴(ぜんめい:あえぐような苦しげな呼吸音)、慢性呼吸器疾患といった症状を呈する。
また、多くの個体が流涙症という、涙管の閉塞により常に目やにが溜まる症状を抱える。さらに、平坦な顔のせいで顔面や歯の配置に問題が生じ、食事が困難になったり、感染症の原因になることもある。
問題はこれだけではない。
極端な特徴を生み出すための選択交配により、モダン・ペルシャは高確率で、皮膚のしわの増加に起因する皮膚感染症や、脊柱形成異常を発症するようになった。こうした個体の多くは、頻繁に獣医の治療を受けなければならないため、生活の質が大幅に低下してしまう。
ペキニーズ顔のペルシャは人気を集め、スターダムを駆け上がった。しかしその裏で、ネコの健康と福祉が犠牲になったのだ。