主人公はうだつの上がらない映像制作業者・神保。ある日、彼のもとに大学時代の先輩・及川から連絡がくる。憧れの先輩との共同業務に、気分が湧き立つ神保だったが、その仕事は怪しいディープフェイク映像制作の下請けであった──。
本作では、70分間で徐々に神保がリアルとフェイクの境目に堕ちていく様が描かれる。数々のフェイクドキュメンタリーを手掛けてきた2人の真骨頂だ。
本記事では、同作の劇場での公開を記念して、上映後に怪談作家の梨を迎えて開催されたトークショーの様子をお届けする。制作秘話や、とあるシーンに隠された秘密が明かされた。
※「フィクショナル」は、シモキタ - エキマエ - シネマ「K2」にて上映中。12月27日よりWHITE CINE QUINTOでも上映。
梨:「フィクショナル」楽しかったです。ラスト5分ぐらいでずっと乾いた笑いが出続ける感じというか、ほんと呆然としてたんですよ。ちゃんとストーリー上の整合性がある上で完全にひっくり返されたので、そこの衝撃がまず強かった。
あとは、キャラクターが信頼できない感じで。「本当にこの人のセリフとして信用していいんだろうか」みたいな緊張感がずっとあって、鑑賞体験とし面白かったんですよね。
大森:本作では、ディープフェイクの制作を通じて、主人公神保の現実と虚構の境目がどんどん曖昧になっていきます。この脚本を酒井さんから初めてもらったとき、主観的に描かれていないというのがちょっと特殊だなと思いました。客観性を持っていることによってより不気味さが増してるというか。そういう意識が酒井さんの中であったりしたんですか?
酒井:ないと言うと変なお答えになっちゃうんですけど、映画の場合普通に撮ると客観になるんです。むしろ主観の方が不自然に手を加えてやらないといけないんですよ。
梨:「フィクショナル」を観る前に、ホラーでありBL要素がある作品と聞いていて。どんな感じでBLなんだろう?と思って意気揚々と観に行ったら、しっかりBLだったんですごくありがたかったんですけど(笑)そもそもキャラクターやテーマはどうやって形成したのですか?
大森:酒井さんと“気になる事象”みたいな話をしていたときに、「陰謀論」とか「ポストトゥルース」といった話が出たのが最初です。それを踏まえて酒井さんが今のプロットに近いものをあげてくださった。その時点ですでに、男性どうしの恋愛が怪しい仕事にのめり込んでいく起点になっていて。
酒井:僕は、(作品を観客に)どんなふうに観てもらうかにまったく興味がないんです。だから撮影日終了1日前ぐらいかな、大森さんに「BL作品と謳おうと思うんですけどいいですか?」と聞かれて、「お任せします」と。僕は面白ければいいと思っているので、「これはジャンルとして正しいかどうか」ってことは考えないんです。