プロセスマイニングは、業務システムから取得したログデータを分析することで業務の非効率性を発見・改善するソリューションとして、2011年にドイツで誕生したテクノロジーだ。業務プロセスのデータを分析し、業務の現状をデジタルツインとして描写することで、改善すべき点が明確に抽出され、生産性向上に寄与する。
現在、創立100周年となる37年度までの変革のまっただなかにあるNIPPON EXPRESS(NX)ホールディングスは、グループの経理システム統一と標準化にあたって「Celonis」を導入し、大きな成果を上げている。
大槻秀史(以下、大槻):NXグループは37年度に向けた長期ビジョンとして、グローバル市場で存在感を有するロジスティクスカンパニーを目指しており、3つの重要戦略として「グローバル市場での事業成長の加速」「日本事業の再構築」「サステナビリティ経営の推進」を掲げています。
22年度にホールディングス体制へと移行し、その後はグローバル事業本部(GBHQ)の設置、経理システムおよび国際会計基準への切り替え、事業ポートフォリオの見直しなどを行っています。
加えて自社不動産や保有株式の売却による資金を使い、24年の1月にオーストリアのcargo-partner社を取得するといった海外でのM&Aも積極的に実施しています。37年までにグループの売上収益における海外の割合を現在の2倍近く、50%にまで引き上げる計画です。
村瀬将思(以下、村瀬):Celonisは大手企業のC-Suiteを招いたCxOクラブを行うなど、NXグループも進めているグローバル展開やサステナビリティ経営に関する情報や悩みを共有できるコミュニティを立ち上げています。その場では近年、CFOや財務領域責任者に求められる役割が変化している、といった話をよく聞くようになりました。
大槻:NXグループの経理・財務部門には、大きく分けて「企業価値向上」と「グローバル化推進」というふたつの役割が求められています。
まず「企業価値向上」について、従来、株価や時価総額が経営状況と強く連動するPL(損益計算書)重視の傾向がありました。しかし、近年は事業ポートフォリオマネジメントや株主還元の方針、ROIC経営など、市場に対して将来的なBS(バランスシート)のあるべき姿を明確に説明することが重要視されるようになっています。
また、「グローバル化推進」における経理・財務部門の役割はふたつあります。ひとつは、成長分野に対してしっかりとキャッシュを供給すること。もうひとつは業務プロセスのグローバル統一やグループ全体の業務運営の効率化、最適化を図ることによるリスクの抑制です。それぞれがグローバル化推進における、いわばアクセルとブレーキの役割を果たします。
村瀬:これまで財務部門というと“守り”のイメージでした。しかし、近年の財務責任者やCFOは、自社の戦略を市場にアピールして株価を反応させるような経営戦略に直結する立場としての存在感も強まっています。NXグループの改革を進めるうえでは、どのような課題に直面されましたか。
業務システム標準化における課題をプロセスマイニングで解決
大槻:経理・財務領域では、グローバルスタンダードである国際会計基準へと移行するため、19年からグループ内での経理システム統一に着手し、22年度以降はホールディングスと国内の子会社約120社をSAPに移行・統一しています。小規模な子会社ではSAP導入の負荷が大きく、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)のセンターをつくって経理業務を集約したのですが、システム移行に伴い、数多くのエラーや手戻りが発生してしまいました。課題となっていたのは、子会社ごとの独自の事務や業務プロセスで行われていた経理取引を、統一されたフォーマットで最適化された標準業務プロセスに従って、手戻りなくいかに効率よく登録させるかでした。
そして、そのソリューションとして挙がったのがプロセスマイニングでした。
同分野におけるマーケットリーダーであるCelonisはすぐに活用可能なSAPを含めた多種多様な分析用標準カタログやコネクターを提供していたこともあり、業務手順最適化のための分析が高速化することへの期待は大きかったですね。
さらに、経理業務のシェアードサービス化やリモートワークが広がるなかで、ユーザーの業務実態を定量的に把握するためのタスクマイニングも非常に有効と考えたのです。
村瀬:業務の流れを可視化するプロセスマイニングに対して、タスクマイニングは個々人の作業を分析する手法であり、プロセスマイニングで“森”を見て、タスクマイニングで細かく“木や枝”を見ていくイメージです。タスクマイニングは個人の管理・監視が目的ではなく、生産性が高い人のノウハウを形式化し、ほかの人へと引き継ぐことを可能にします。
日本でもシェアードサービス化やリモートワークが進み、2040年問題をはじめとした労働人口減少も深刻化している状況において、タスクマイニングは熟練者のベストプラクティスを継承するために必要なソリューションとなるはずです。そういった意味で、NXグループは早くから「新しい働き方」を適用された成功事例だと思っています。
大槻:海外のM&Aを進めるなかではオーナー企業の買収も多く、独自のルールや決済体系の不備があるケースがままあります。地域や文化も異なることから生じる業務のギャップを埋めていくためには、分析データをもとに標準化を進められるプロセスマイニングは非常に役立っています。
「Celonis」の導入によって、債権・債務領域、購買領域、SSC(シェアドサービスセンター)/BPO領域はいずれも業務改善を果たしていて、その改善効果を金額換算すると今や1億円以上です。
現在はSAPといったSaaSとそのサポートソリューション、「Celonis」の3つを組み合わせて業務改善のサイクルを回すことがひとつのセオリーとなっていて、プロセスマイニングによってSaaS同士を連携させたシナジーの創出を実現しています。
また、「Celonis」活用の新しい取り組みとして、債権債務領域と購買領域を紐づけたオブジェクトセントリックプロセスマイニング(OCPM)の実装や、AI活用に着手するなど、利用範囲も順次拡大しています。
NXグループは今後もグローバルベースでのデータドリブン経営による経営管理の高度化を目指し、それを実現できるプラットフォームの構築に向けて取り組んでいきます。そのためにプロセスマイニングは欠かせないものであり、私たちにとって「Celonis」はグローバル市場における成長のパートナーと言えるでしょう。
村瀬:グローバル戦略を進めるうえで、海外企業を含めて標準化する仕組みに落とし込んでガバナンスを利かせていくことは、経理・財務部門としての“守り”だけでなく、“攻め”の戦略にもつながってくるはずです。「Celonis」のデータを共通言語として海外拠点とも制度や文化を融合させているNXグループは、グローバル推進企業の好事例だと思います。
Celonis
https://www.celonis.com/jp/
右:おおつき・ひでし◎NIPPONEXPRESSホールディングス 常務執行役員 経営戦略本部長および日本通運 取締役常務執行役員。日本通運財務部長などを経て、23年1月より現職。
左:むらせ・まさし◎2009年、日本ヒューレット・パッカードHPソフトウェア・ソリューションズ統括本部に本部長として入社。HPソフトウェア事業統括や執行役員を務めた後、ServiceNow日本法人社長に就任。21年12月より現職。