しかし、2000年代にモバイルの波に乗り遅れただけでなく、現在急速な発展を遂げているAIの分野でも競合に大きく遅れを取る結果となり、近年業績も低迷している。
特に注目すべきは、インテルが「Intel Capital」というCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を通じて多くのスタートアップに投資し、実績を残してきたにもかかわらず、本業でのイノベーションを十分に起こすことができなかった点だ。日本でもCVC活動が活発化するなか、インテルの事例にはいくつもの学ぶべき教訓がある。
インテルの戦略的誤り
2024年12月3日にCEOのパット・ゲルジンガーが辞任した。表面上は辞任の形を取ってはいるが、取締役会で解任か辞任かを突きつけられたとも言われている。ゲルジンガーは、2021年にCEOに就任した際、インテルの復活に向けたビジョンを掲げた。製造プロセスの改善、ファブ(工場)事業の拡大、先進技術への再投資など、数多くの戦略を打ち出し、取締役会もこれをサポートしたはずだった。しかし、これらの施策は、ゲルジンガーの就任以前からの10年以上にわたる戦略的な意思決定の軌道修正を試みるものであり、3年やそこらで結果を出せるようなものではなかった。ゲルジンガーの辞任によって取締役会の信頼がさらに失墜しただけでなく、後任を探すのも非常に苦労するであろう。かつての栄光を取り戻すことはもはや不可能ではないかとも思える。
たとえば、半導体製造プロセスで競合のTSMCに後れを取った要因は、長年にわたり、設計・製造・流通を垂直統合的に行う「自社ファブ」という過去の成功モデルに固執した結果である。TSMCが外部企業からの受託製造に特化し、スケールメリットを活用して急速に進化したのに対し、インテルは内部最適化にこだわるあまり、産業全体の変化に乗り遅れてしまった。
この「変化への対応の遅れ」は、いわゆる「イノベーターのジレンマ」の典型的な事例だ。本業が過去に成功していればいるほどこの呪縛から逃れることは困難で、自らの成功を否定するような決断をすることは簡単ではない。インテルがAIで遅れを取っているのも、逐次処理(彼らの強みは一つずつ順番に計算をする)に強みを持つ自社CPUへのこだわりが強かったゆえである。並列処理を必要とするAIのような新しい動きには素早く対応できなかったのだ。