尹氏をよく知る人々によれば、尹氏は検察官出身のため、正義感が強く、「白か黒か」という二分法を好む傾向にはあったが、特定の強い政治姿勢があったわけではない。実際、文在寅政権当時には、朴槿恵元大統領に対する捜査を評価され、検事総長に昇進している。2022年3月の大統領選に出馬したのも、文政権当時に懲戒処分を受けたことから、「反文在寅勢力のシンボル」に祭り上げられた結果に過ぎない。極右の指導者どころか、保守政治家として一目置かれていたわけではない。
その尹氏の異変の始まりは、昨年8月15日に行われた光復節(祖国解放記念日)の記念演説だった。この時、尹氏は「共産全体主義に無分別に従い、創作宣伝で世論を歪曲し、社会を混乱させる反国家勢力が、大手を振っている」と語り、初めて「反国家勢力」という言葉を使った。このころから、尹氏の心境に「極右傾向の芽」が生まれていたようだ。
尹氏は今回の非常戒厳の際、中央選挙管理委員会に兵士を送った。4月の総選挙で「不正行為」があったことを証明したかったからだという。韓国の複数の知人たちは「主に、極右系のユーチューバーやインフルエンサーが広めた言説だった」と語る。
尹氏は激しい政争に疲れていたようだ。進歩(革新)系最大野党「共に民主党」は閣僚や政府高官の弾劾を連発。政府提案の法律もことごとく阻止しようと動いた。進歩系メディアも、こうした野党の動きを比較的好意的に伝えた。尹氏はいつしか、自分に好意的なメディアしか目を通さなくなった。メディアだけではなく、極右系ユーチューブも好んで視聴していたという。