ヘルシングの共同創業者でCEOのトルステン・ライルは、昨年9月のロンドンのテック系カンファレンス、自身が設立した評価額が45億ドル(約6770億円)の防衛スタートアップのビジョンを明確にした。「私たちはハードウェアの会社ではない。ソフトウェアの会社だ。それだけをやっている」と彼は述べていた。
彼が掲げた方向性は、米国のAnduril(アンドゥリル)やShield AI(シールドAI)のように、自社でミサイルやドローンを製造し、防衛産業の巨人に挑もうとする他のスタートアップとはまったく異なるものだった。元ビデオゲーム開発者のライルは、ヘルシングがソフトウェアに専念し、AIを活用して欧州の軍隊や武器メーカーを支援することに注力すると語っていた。
しかし、ここに来てヘルシングは、180度の方向転換を行った。同社は先日、約80キロの航続距離を持ち、戦場の上空から装甲車両を爆破できるドローン「HX-2」を発表した。「このドローンを大規模に展開すれば、敵の地上部隊に対する強力な防御シールドになる」と、共同創業者のニクラス・クーラーは声明で語っている。
ヘルシングの広報担当者は、同社が最近、HX-2ドローンの製造をドイツで開始したと発表し、これらのドローンが同等のシステムよりも安価になると付け加えた。ヘルシングの方針転換は、ドイツ軍の主力戦車レオパルトの製造元ラインメタルや、航空機メーカーのエアバス、スウェーデンの航空宇宙グループSaab(サーブ)といったメーカーとの契約に続くものだ。
創業者のライルは、同社のAIがサーブの戦闘機、グリペンのレーダーシステムや、ドイツ空軍のユーロファイターの能力向上に使用されたことを投資家にアピールしていた。
欧州で最も評価額が高い防衛テックのスタートアップ
Pitchbookのデータによると投資家が防衛テック企業に注いだ額は、2019年以降に1000億ドル(約15兆1700億円)以上に達しているが、ヘルシングに匹敵するこの分野の企業は、今年6月に評価額140億ドル(約2兆1200億円)で15億ドル(約2300億円)を調達したアンドゥリルを除けば、他に存在しない。2021年に設立されたヘルシングの評価額は、7月に米国のゼネラル・カタリストとアクセルから4億8000万ドル(約730億円)を調達したシリーズC以降に45億ドル(約6800億円)に急上昇した。同社は、この調達ラウンドの以前に、スポティファイの創業者のダニエル・エクの投資会社を含む投資家から3億2500万ドル(約490億円)を調達していた。