経済・社会

2024.12.10 13:45

ユン大統領は「張子の虎」に。戒厳令騒動後に待ち構える韓国社会の状況

Photo by Chris Jung/NurPhoto via Getty Images)

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筆者は12月3日から4日まで韓国の国会議事堂の敷地内にある国会議員会館での仕事が予定されていた。3日は朝から仕事をして夕方には帰った。すると夜、知人からの「明日、国会に入れるの?」というモバイルメッセージを受信した。続けて「戒厳令で、たぶん国会に入れないのでは?」という。

フェイクニュースかと思いきや、ネットで調べてみると、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が「血を吐く思いで、非常戒厳令を発令する」と語っているのを確認した。

その時点で、すでに国会議事堂の前には多くの市民が集まっている様子だった。筆者の家は国会議事堂に近いため、建物の上空をヘリが飛んで行く音がした。韓国は果たして非常戒厳令を発令するほど非常事態なのか? すべてが疑問だらけだった。

映画『ソウルの春』が再び人気に

韓国の人たちにとって「戒厳令」は、過去の軍事政権やクーデターなどを思い浮かべる。

殺気だった雰囲気のなかで、軍人たちが有無を言わさず一般人にさえ銃を向ける。今年のノーベル文学賞を受賞したハン・ガンさんの小説『少年が来る』の舞台になった1980年の光州事件。「光州民主化運動」とも呼ばれ、韓国の南西部である光州市で1980年5月18日から10日間ほど続いた当時の軍事政権の弾圧に対する抵抗運動だが、このときに戒厳令を直接経験している人たちもいる。

また去年11月、同じく戒厳令が敷かれた1979年の12.12事件を題材にした映画『ソウルの春』が上映され、この作品が2024年の最多観客賞(1300万人超)を受賞しているので、この作品で当時の緊迫した状況を知る人も多い。

『ソウルの春』は、軍部によってクーデタを起こし大統領にまでのし上がったチョン・ドゥファン(全斗煥)元大統領をモデルに、当時の様子をドラマ仕立てで描いている。12.12事件のリアルな様子は当時の人しか知る由もないが、今回の戒厳令では、誰もが国会上空をヘリが飛び、市内に装甲車が入ってきたのを、テレビやSNSを通じて目にすることになった。

今回の戒厳令騒動で、『ソウルの春』は上映されてから1年ぐらいになるのだが、12月4日には映画評価アプリ「ホットランキング」では人気作品の第18位に浮上した。再上映してほしいという要請も殺到しているという。

戒厳令が宣布されると、メッセージアプリのカカオトークやSNSでは、学生たちは「しばらく学校は休校なのか」、会社員は「しばらく在宅勤務か?」「株はどうなる?」「為替は?」、そして自営業者は「年末は書き入れ時なのに商売あがったりになったらどうしよう」など、それぞれの不安を言い合っていた。

報道で見る限りでは国会前に繰り出して弾劾を叫ぶのが一般の人たちに見えるかもしれない。もちろん一般の人たちがいないわけではないが、多いのは「共に民主党」などと関連しているか市民団体などで、一般の人たちは自分のことで精一杯なのである。

また一方では、戒厳令宣布以降、言論と集会の自由が侵害され、電話やネットまでも検閲または中断されるという懸念があった。過去の戒厳令では主に「物理的な統制」が憂慮されていたのだが、現在のようなITの時代には「情報の統制」のがいちばん恐ろしいことになるのだ。
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文=アン・ヨンヒ

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