その後はご存知の通り、日本とは犬猿の仲となり、米国とも疎遠になっていった。それを憂慮する右派(保守系)の人たちが多く、やっとのことでユン・ソンニョル大統領を選出したのだった。もともと彼はムン・ジェイン前大統領側にいた人だったが、保守系に転じた形になり、保守系は大統領選間近で現れた大統領候補のダークホースに歓喜した。
ユン・ソンニョル氏が大統領になれたのは政治の素人だったからという話がある。政治のプロたちは政敵も多く、弱味を握られている可能性も高い。そういう意味でユン氏は政治には入門したばかりで、まだ政敵が弱味を握る時間がなかった。そうやって大統領選挙間近に登場したユン氏は大統領になりやすかったといえる。
だが、ユン氏は大統領になってからが問題だった。政治に素人だったばかりに、自分の妻や側近たちに対する政治的攻撃に耐えられなかったようだ。自分が良かれと思ったことに対してことごとく反対する野党にしびれをきらしたのだろう。狸のような政治家であったらそんな攻撃もうまく交わせたかもしれないが、彼は検察総長にまでなった元検事なのだ。
彼は自分にたてつく政治家を攻撃するために戒厳令という手段を使ったかもしれないが、国民に与えるショックを考えなかったらしい。軍の独裁政権ならともかく、いまは民主主義の世の中で、勝手な行動を取る大統領を許さないそんな雰囲気なのだ。
今回のことで弾劾は当たり前のような雰囲気になってしまったが、パク・クネ(朴槿恵)元大統領を弾劾したときの後味の悪さで、弾劾したくないという気持ちの人たちもいる。
それはユン大統領を支持するからではなく、ただ国民が一度選んだ大統領を何度も弾劾させて途中でやめさせてしまうことへの不安である。だから与党の「国民の党」は必死で弾劾の決議は繰り延べさせたのだと思う。もちろん大統領のためというより、党のためにした決断でもあるだろう。
だが今後、野党はずっと弾劾を叫び続けるだろう。今回の戒厳令でユン大統領は張り子の虎になってしまい、その陰で野党議員がほくそ笑んでいるように思える。