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2024.12.24 16:00

激動の時代を生き抜いたJVCケンウッド──変革を支えた"Serenity"の精神

2024年度の中間決算で、2008年のケンウッドと日本ビクターの経営統合以降最高益を更新したJVCケンウッド。躍進の裏には、CEO江口祥一郎の強力なリーダーシップと独自の経営哲学があった。


2000年代、急激なデジタル化や韓国や台湾、中国メーカーの台頭により、日本の民生機器業界は経営難に陥った。08年、その波を大きく受けた映像・音響機器事業を展開する日本ビクターと、無線機器やホームオーディオ、カーオーディオを手がけるケンウッドが経営統合。さらなる事業成長を目指そうとした矢先、リーマン・ショックに見舞われた。当時、Kenwood U.S.A. Corporation(現 JVCKENWOOD USA Corporation)で取締役社長を務めていた江口祥一郎(写真。以下、江口)は、急遽日本に帰国。江口は当時を次のように振り返る。

「まずは不採算事業を整理し、バランスシートを健全にする。これを徹底的に行いました。余剰な工場閉鎖や人員削減に加え、統合当時139社あった関係会社を39社まで削減。買収や新規設立を合わせ、24年9月時点で73社のグループ企業を有しています。同時に事業ポートフォリオを民生事業からB to Bへと大変革する経営体制を整えました」

成長を支える北米での無線システム事業

19年、CEOに就任した江口は、抜本的な損益構造の見直しによる収益性の向上や継続的なポートフォリオの最適化に着手。同社の事業はカーナビやドライブレコーダーなどを展開する「モビリティ&テレマティクスサービス分野」、無線システム事業などを擁する「セーフティ&セキュリティ分野」、音響・映像機器や楽曲・映像コンテンツの配信を手がける「エンタテインメントソリューションズ分野」の3本柱となった。特に業績向上のドライバーとなったのが無線システム事業だ。

コロナ禍以降、相次ぐ紛争や災害などにより、BCP対策として通信インフラの状況に影響されずに通信可能な無線機器を導入する組織や企業が北米を中心に増加。これまでの実績と信頼に加え、高品質、高機能かつ柔軟なカスタマイズに対応できるケンウッドブランドの無線機が高く評価されている。

「無線システム事業はケンウッドの前身である春日無線電機商会創業時からの祖業。経営統合後も一貫して利益を出していましたが、ほかの事業の売り上げが安定しない時期が続き、無線システム事業に十分に経営資源を割くことができなかった。しかし、コロナ禍を乗り越えたタイミングで勝負に出ることに。堅牢性を極限まで高め、3つの周波数帯域と2つのデジタル無線規格に1台で対応できるデジタル無線機『VP8000』を発売し、北米の公共安全市場で高い支持を得ることができました」

21年度は35%だった同分野の事業利益の構成比が、23年度に84%を占めるまでに急成長している。

“変わらない”ことを選択できる冷静さ


21世紀に入り、経営不振にあえぐ日本の民生機器メーカーが多いなか、なぜ同社は生き残ることができたのか。「ひとつは強みを生かしたことです。無線やオーディオなど、それまでの社業で培った強みに特化していった。そしてもうひとつが、成長だけを追い求めるのではなく、ある領域では“変わらない”ことを選択できる冷静さを備えていたことです」

江口の座右の銘に、20世紀に活躍した米国の神学者であるラインホルド・ニーバーの言葉がある。「平静の祈り(Serenity prayer)」という有名な祈りの文句の一節で「神よ、変えられるものについてはそれに立ち向かう勇気を、変えることのできないものについてはそれを受け入れる冷静さを、そして両者を見極めるための賢さを、私に与えたまえ」というものだ。

「経営において変革を求めることは勇気がいるが、思い切って英断できる面がある。しかしより難しいのは、変わらないことを受け入れる心の平静さです。ニーバーの言葉は、攻めと守り両方をバランスよく保つことの必要性を説いていますが、経営においてもそれは同様だと考えています」

闇雲に売り上げ拡大をはかったり、新規事業を立ち上げたりするのではなく、自社の足元を見つめ、時流を読み確実に経営基盤を鍛える。この精神が江口の、ひいては同社の強さといえるだろう。

ROIC経営とデザイン経営を重視

中期経営計画「VISION2025」において江口が標榜するのが、ROIC経営の実現だ。ROIC(Return On Invested Capital)は、税引き後の営業利益を投下資本で割ったもので、事業活動のために使った資本がどれだけの利益を生み出したかを示す指標。一般的に企業利益をはかる指標にはROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)が用いられるが、江口がROICを重視しているのは、自社の事業の足元を確実にとらえたいという意識が働いている。

「事業は単年度で評価できないものがある。例えば無線システム事業は、買い替え需要が頻繁にあるわけではなくライフスパンが5年10年と長い。つまり業績をはかるには、時間軸を考慮する必要がある。しかしROAやROEは年度ごとの算定が多い。その点ROICは評価期間を事業の種によってフレキシブルに設定できるのがメリットなのです。またROICは、分子の営業利益を増大させるのはもちろん、分母の投下資本を効率化することでも向上が可能。言いかえれば、無駄を排除することもROIC経営のポイントになるわけです」

ROIC経営と併せて、江口が力を入れるのがデザイン経営の社内浸透だ。いわば、マーケットインで事業を進めていくことを示している。

「日本のメーカーはプロダクトアウトでよいものをつくれば売れるという意識が強く、商魂に乏しいとよくいわれます。この意識を変えるためにはデザイン経営の視点で“稼ぐ”という意識を社員全員がもつ必要がある」

24年10月、同社は横浜市の敷地内に新棟を建設。本社地区全体を「Value Creation Square」と命名し新たなスタートを切った。ここにもROIC経営やデザイン経営を標榜する江口の強い思いが込められている。

2024年10月に「Value Creation Square」を創設。これま で分野別・拠点別だった商品企画部門、技術部門および コーポレート部門とR&D部門との連携強化により、グロー バルなメガトレンドに対応した技術開発を強化していく。

2024年10月に「Value Creation Square」を創設。これまで分野別・拠点別だった商品企画部門、技術部門およびコーポレート部門とR&D部門との連携強化により、グローバルなメガトレンドに対応した技術開発を強化していく。

首都圏に点在していた商品企画部門、技術部門およびコーポレート部門とR&D機能を担う未来創造研究所とイノベーションデザインセンターを集結。部門横断による共創を生み出し、持続的なイノベーション創出を実現する環境を整えた。

「技術者が働きやすく、新しい発想を生み出せる環境を構築したことで今後のさらなる発展の原動力にしていきたい」

江口は、少年時代、ラジオやアンプなどの工作に夢中になり、ものづくりに憧れを抱いていた。この業界に飛び込んだのも、そんな憧れがあったからだったという。入社後は、長年の海外赴任により、欧米型の経営感覚を身につけた。ニーバーが言う“勇気”と“心の平静さ”、そして合理性を追求する“欧米型経営”と“日本のものづくり”に対するリスペクト―。

江口が日本のものづくり企業において強力なリーダーシップを発揮し実績を上げられているのは、優れたバランス感覚をもち、一見相反する側面をうまく使い分けているからなのだろう。

JVCケンウッド
https://www.jvckenwood.com

えぐち・しょういちろう◎JVCケンウッド代表取締役 社長執行 役員 最高経営責任者。1979年トリオ(現 同社)入社。03年にケンウッド(現 同社)執行役員常務に就任以降、同社カーエレクトロニクス市販事業部長、同社副社長兼経営戦略部長などを経て現職。

promoted by JVCケンウッド | text by Motoki Honma | photograph by Kayo Takashima | edited by Aya Ohtou(CRAING)