想像しづらいだろうが、タコの瞬間的な体色変化は、エネルギーを酷使する重労働だ。この事実は、2人の生物学者が、体色変化中の生きたタコの酸素消費量を測定する研究を行い、論文を発表したことで明らかになった。
急速な体色変化は、動物界において幾たびも進化してきた適応形質だ。その用途は、動的カモフラージュ、コミュニケーション、体温調節、紫外線からの体の保護など幅広い。
体色変化は、カメレオンやアマガエル、タコのように急速な場合もあれば、カンジキウサギやさまざまな鳥類のように、ゆっくりと起こる場合もある。しかし、急速な体色変化の進化についての知見には、この能力に伴う代謝コストに関する情報が欠落していた。
体色変化のスピードと体色パターンの多様性について見たときに、すべての動物のなかで群を抜いているのが頭足類だ。彼らの能力は、もはやスーパーパワーと言ってもいい。
頭足類、とりわけ多くの種のタコは、色素胞と呼ばれる特殊な皮膚細胞をもつ。色素胞は、色素で満たされた小さく柔軟な袋だが、周囲に15~25本の筋繊維が放射状に接続していて、車輪のスポークとハブに似ている。
これらの筋繊維が弛緩しているとき、色素胞はほとんど目に見えない極小の点にまで収縮し、これによりタコの体は白く見える。一方、筋繊維が収縮すると、色素胞は拡張され、色素粒子が皮膚の小区画に一様に広がり、こうして体に色がつく。
このような体色変化は急速であるだけでなく、タコの場合、極めて正確でもある。個々の色素胞は、コンピュータースクリーン上の小さな画素のように作用するのだ。今回の研究対象となったOctopus rubescens(マダコ属の一種)のような浅海性のタコの場合、皮膚1平方ミリメートルあたりの色素胞の数は実に230個に上る。13インチの4Kノートパソコンのモニター画素数(1平方ミリメートルあたり180画素)よりもはるかに多い。
神経系を通じてひとつひとつの色素胞を正確にコントロールすることで、タコは、緻密な模様のカモフラージュを生み出し、複雑な視覚的表出を行うことができる。