元プロ野球選手の野茂英雄といえば、説明するまでもなく、アメリカで数々の偉業を成し遂げたパイオニアだ。大谷翔平らの活躍は野茂の開拓あってこそ。
一方のスポティファイは定額音楽配信サービスを定着させ、インパクトをスタートアップ業界に与えた。
野茂とスポティファイを結ぶ共通点から何を学べるのか。エンデバー・ジャパンが10月に開いたイベントに登壇した中村の講演と、その後、筆者が行った取材をもとに日本の課題と活路を探る。
野茂が与えた2つの意識改革
野茂英雄の活躍は、日本の野球界に意識改革をもたらした。 中村に言わせると、その意識改革には2つのポイントがある。
1点目は、日本人が「世界最高峰の舞台でも通用する」という自信。以前であれば、MLBから外国人選手が「助っ人」として来日することはあれど、その逆はなかった。今のデジタル分野の グローバルプラットフォームが海外製で占められていることと、どこか似通う面がある。
野茂はその流れを変え、日本のトップ野球選手がMLBで活躍することが当たり前になった。
2点目が、 グローバル基準に基づいた科学的なデータや指標を持ち込み、 日本のトレーニングにまつわる慣習を打ち破った点だ。かつての日本では、陸上の長距離選手でもないのに ひたすら走り込みを根性、勘、慣習の「3K」にまみれた古い育成方法がはびこっていた。
その時代に、野茂は科学的見地に基づいた プレーの分析や 筋力トレーニングやコンディショニングを 日本に広く知らしめてきた。 また野茂の成功をきっかけにして 、このような的なデータに基づいて指導するコーチが日本にも現れるよう になった。選手の科学的な育成という点においてもパイオニアだった。
欧州に新風を起こしたスポティファイ
一方のスポティファイ。有料会員2.4億人を含む6億人強の利用者を抱え、日本にも数多くのユーザーがいる。その偉業とは、音楽業界に定額配信という新風を吹き込んだことだ。レコード会社とのライセンス契約が一筋縄ではいかない音楽業界では、米国新興企業がことごとく事業に頓挫し、「スタートアップ不毛の地」と言われた。
しかも、同社は北欧スウェーデンで生まれたスタートアップだ。
スポティファイの成功は、本国及び欧州に大きなインパクトを与えた。野茂同様に、そのポイントは2つある。第一に、欧州発のスタートアップが世界最大市場の米国で成功したことで、「自分たちも成功できる」という自信を与えたこと。
第二に、スポティファイには米国で確立された科学的アプローチが持ち込まれたことで、欧州のスタートアップ及びベンチャーキャピタル(VC)の古いスタイルが刷新されたことだ。
この2つのインパクトもあって、スポティファイに続くスタートアップが欧州から次々と羽ばたいていった。例えば、クレジットカルマやクラーナなど、フィンテックを中心とした欧州発の新興企業である。
まさに野茂英雄が日本のプロ野球選手にもたらした影響に相通じる面がある。