次は日本の番だ
ちなみに、カウフマン・フェローズ・プログラムとは、 米国のトップVC育成のための組織・活動だ。カウフマンの三代目CEOを務めたフィル・ウィックハムが、それまでは閉鎖的であったこの活動のグローバル化に踏み切り、 VC以外の企業や制度設計者、米国外のあらゆる国から多様な人材を招くようになった。中村は門戸生の一人だ。今や、フォーブスが世界に影響を与えるVCトップ100リスト「The Midas List(ミダスリスト)」にランクインし、日本のVCにおけるパイオニアとなった。
先述のクランダムを設立したファーガソンとカッセルは、中村にとって一学年上と同級生である。「全ての道はローマに通じる」かのように、世界各地にいる1000人近くのVC界のキーパーソンはフィルの薫陶を受けている。
その中村とフィルが共同で設立したSozoベンチャーズは、スクエア、ツイッター(現X)、ズーム、パランティア・テクノロジーズ 、コインベースなど有力スタートアップへの投資実績を持つ。また、こうしたスタートアップの日本進出を支援してきた。
日本を盛り立てる次の動きとしてこの10月、フィルと慶應義塾大学の伊藤公平 塾長、東京大学の染谷隆夫副学長が設立時理事となり、日本に一般 社団法人として「イレブンケーエス」を設立した。
次の10年以内にスポティファイの日本版が生まれるべく、世界に通用するスタートアップ・エコシステムの育成を支援する グローバルイベントの開催、出版、教育プログラムの開催などの取り組みにまい進 していく。
なぜ、中村は日本の今に可能性を感じているのだろうか。
第一にフィルは日本以外の世界のスタートアップ業界のグローバル化を推進してきた立役者だ。フィルは 1990年代に日本に住んだことがあり、自身の子ども2人は日本のパスポートを持つという「知日人」でもある。その彼が日本の可能性を強く信じていること。
次にフィルの指導の下、 Sozoはグローバル展開を支援するVCとしてトップブランドになる過程で日本とシリコンバレーの連携を10年以上サポートしてきた。この経験から、優れたコーチと集中投資というやり方に改めれば、今であれば日本こそ世界のスタートアップの集積地になるという期待、もとい確信があることだ。
実際にそれは起こりつつある。
最近ではグーグル出身者が起業し、エヌビディアから出資を受けたサカナAIのように、拠点として日本を選んだり、Sozoが支援しているPlay.coのように米国から日本に拠点を移したりするスタートアップもある。日本のユーザーのポテンシャルの高さや、東京が誇る世界最高の交通インフラと住みやすさも影響している。
こうしたスタートアップが世界標準のやり方で急成長する姿を目の当たりにする機会が日本で増えれば、日本のスタートアップ・エコシステムの変革を後押しするだろう。
*参考文献...『スタートアップ投資のセオリー』中村幸一郎著(ダイヤモンド社)、『2032年、日本がスタートアップのハブになる』フィル・ウィックハム著(ニューズピックス社)