ESAの発表によると、Proba-3はグリニッジ標準時(GMT)5日午前10時34分(日本時間同午後7時34分)、インド南部スリハリコタにあるサティシュ・ダワン宇宙センターからインドの国産ロケットPSLV(極軌道衛星打ち上げロケット)で打ち上げられた。当初は4日に打ち上げ予定だったが、ロケットの推進システムに問題が生じたため、延期されていた。
Proba-3はコロナグラフ衛星と掩蔽(えんぺい)衛星の2基で構成され、総重量は約550kg。地球に最も近いところ(近日点)で高度600km、最も遠いところ(遠日点)で高度6万530kmという楕円軌道を周回する。
軌道投入後、2基の衛星は分離して、約150メートルの相対距離を維持したまま編隊飛行を開始する。ESAによると、人工日食をつくり出すには、2基の間隔の誤差を1mm以内に留める必要がある。つまり、爪の厚さ程度の誤差しか許されない精密さが要求されるのだ。ここまで高精度の衛星編隊飛行は、世界初の試みという。
衛星はいずれも幅1.5m未満で、GNSS(全地球航法衛星システム)、スタートラッカー(STT、恒星姿勢センサー)、レーザー、無線リンクを利用して自律飛行する。
太陽観測ミッションの開始は約4カ月後を予定している。2基の衛星は太陽の前で一直線に並び、掩蔽衛星が太陽の光を遮ってコロナグラフ衛星に影を落とすことで、最大6時間にわたり、疑似的な皆既日食をつくり出す。
日食を人工的に再現することによって、ESAは太陽コロナの長時間観測が可能になる。なぜ太陽コロナは太陽本体よりも高温なのかという謎や、太陽フレア(太陽面爆発)に伴ってプラズマと粒子が噴出するコロナ質量放出(CME)と太陽風の加速メカニズムなど、太陽コロナをめぐるさまざまな疑問の解明につながると期待されている。
2基の人工衛星は2年間軌道を周回した後、徐々に高度を下げ、地球の大気圏に落下する。ESAの推計では、このプロセスには約5年かかる。
人工日食は地球から見えるのか?
Proba-3がつくり出す疑似的な日食は、残念ながら地球上からは見えない。しかし、ESAは2025年3月から週に最大2回の人工日食を起こし、その画像を公開するとしている。ESAは2014年にProba-3ミッションを発表した。予算は2億ユーロ(約320億円)。小型衛星を用いたESAの低コスト軌道上実証プロジェクトにおける4回目のミッションで、2012年に打ち上げられて地球上の植生をマッピングしたProba-Vミッションに続くものだ。Proba-1衛星は、地球の観測を目的として2001年に打ち上げられた。一方、2009年に打ち上げられたProba-2衛星は、太陽同期軌道を周回しながら太陽観測を続けている。
ESAはProba-3について、2基の小型衛星が軌道上で精密な編隊飛行を実現するという実証目標を達成できれば「科学と応用の分野における全く新たな時代の幕開け」となり、新たなミッションを「より大規模なスケールで構築する」ことが可能になると述べている。
(forbes.com 原文)