具体的に乙武さんは「ダイバーシティを推進する第一歩は、意思決定層に多様な背景を持つ人々を登用することです。組織が多様な視点を受け入れ、革新的なアイデアを生み出すためには、リーダー層の意識改革が欠かせません」と強調しています。リーダー層が多様な背景を持つことで、企業全体の文化が変わり、従業員一人ひとりが持つ力を最大限に発揮できる環境が整います。
ダイバーシティを進めるためには、組織のトップから変革を促す必要があります。トップダウンのアプローチとボトムアップの取り組みを組み合わせることで、従業員一人ひとりが多様な視点を持って働ける環境が整うのではないでしょうか。
「新結合」に欠かせない鍵に
ダイバーシティと寛容性は、企業の持続可能な成長を実現するために欠かせない要素です。異なる視点を持つ人々が協働し、寛容な環境で働けることが、新しい価値やビジネスモデルを生み出す原動力となります。これからの企業が競争力を維持するためには、多様な人材を受け入れるだけでなく、彼らが最大限の力を発揮できる環境を整えることが求められています。今回、事例を取り上げた早川工業では、障がいやLGBTQだけでなく、兼業や副業といった働き方の多様性を含めたダイバーシティが、同時に組織の体制やルールづくりにつながり、新たな事業開発にもつながっていました。
シュンペーターの「新結合(ニューコンビネーション)」理論は、既存の要素が新しい形で結びつくことで新しい価値が生まれるという考え方で、まさにダイバーシティの重要性を象徴しています。異なるバックグラウンドや視点を持つ人々が共に働くことで、これまでにない組み合わせや発想が生まれるのです。
日本企業においても、リーダーシップ層が多様性を積極的に取り入れ、組織全体にその重要性を浸透させることで、持続的な成長と競争力の強化を実現することができるでしょう。
ダイバーシティの推進が人権尊重やリスクヘッジといった単なる「良いこと」として行われるだけでなく、むしろそれ以上に、ビジネスの成長とイノベーションにとって欠かすことのできない戦略的な要素として位置づけられるべきだと思うのです。
技術開発にとって基礎研究の充実が基礎となるように、イノベーション創出や新規事業開発にとってダイバーシティとそれを担保する寛容性が前提となりうる、という視点で捉え直してみてはいかがでしょうか。
(12月14日に東京・渋谷で「Diversity to Innovation」というイベントを開催し、乙武さんと対談をします。詳細はこちら)