経営・戦略

2024.12.19 13:30

「株主提案天国」ニッポン 企業はどう向き合うべきか

古田温子|デロイト トーマツ エクイティアドバイザリー合同会社代表執行役社長・保田隆明 |慶應義塾大学総合政策学部教授

「何もせずに勝とうとするから負ける」

保田:会社法上、日本は株主提案権を行使しやすい「株主提案天国」だといわれることがあります。株主提案の数が増えている要因のひとつは、この事実に気づいた機関投資家が増えているからだと考えられます。ただ、それなら会社法を変えて株主提案のハードルを上げればいいかというと、私はそうは思いません。
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古田:同感です。世の中が急速に変化しているなか、昭和の時代からいまだに変われずにいる日本企業はたくさんあります。株主提案を受ける、あるいは受けるリスクがあるというのは、会社にとって健全なリスクだと私は考えています。また、企業価値を上げることを会社が真剣に考えて具体的な方針を公表し、実行すれば、株主提案が通るリスクは低いです。言い方を変えると、何もせずに勝とうとするから負けるのです。

今の日本企業が抱える課題のひとつに、将来に向けた投資にきちんとお金を回している企業が少ないことが挙げられます。付加価値を創造することができるのは企業であり、そこに所属する社員たちです。これが原点であり、最も尊いことだと私は思います。経営者が明確なビジョンを示し、社員が誇りをもって働けることこそが、企業の付加価値の源泉です。

アクティビストは、会社が蓄積してきた付加価値を吐き出させようとします。人的資本への投資や研究開発への投資を削減し、目先の利益を増やすだけでは、アクティビストたちに利益を取られてしまうリスクがあります。日本企業は、目先の利益を多少減らしてでも将来につながる投資に資本を振り向けるべきです。
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保田:従業員や事業に投資をすると、短期的には利益が下がります。そのプレッシャーに耐えられないという経営者は少なくありません。しかし、会社や社会のこれからのことを考えると、長期的な目線で自社の人的資本や研究開発に投資することは不可欠です。会社を率いる方々には、会社や社会の未来のためにも鋼の心をもってプレッシャーに耐え、いい意味での「鈍感力」で突き進んでいってほしいです。
古田温子◎大手証券会社、IR/SRコンサルティング会社、経営人材コンサルティング会社などで敵対的買収防衛支援やプロキシーファイト対応、アクティビスト対応、中期経営計画策定支援などに従事したのちデロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社入社。2024年4月より現職。

古田温子◎大手証券会社、IR/SRコンサルティング会社、経営人材コンサルティング会社などで敵対的買収防衛支援やプロキシーファイト対応、アクティビスト対応、中期経営計画策定支援などに従事したのちデロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社入社。2024年4月より現職。

文=瀬戸久美子 写真=小田駿一

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