経営・戦略

2024.12.17 13:30

GX時代に必要な、真の「リスキリング」とは

柳川範之|東京大学大学院経済学研究科教授(イラストレーション=オリアナ・フェンウィック)

──具体的に、リスキリングを企業の成長につなげるためにはどうすればいいのでしょうか。
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柳川:ポイントは3つある。第一に、中期経営計画のなかで、従業員のスキルのポートフォリオの転換や発展の目的や方向性を具体的に明示することだ。

GXやDXが不可欠な企業は数多く存在する。従来であれば、社内に適切な人材が不足していれば外部から採用したり、自社の成長に必要なスキルをもつ人材が集まる企業をM&A(企業の合併・買収)したりするのが一般的だった。しかし、全社を挙げて事業構造を転換する際には、社内人材の育成が不可欠だ。中計を通じて企業が向かうべき中長期の戦略と、そのために必要な人材を社内外に公開することで、リスキリングイコール企業と事業のさらなる発展なのだと従業員に明確に示すことができる。

第二に、社内でより活躍するためにはどのようなリスキリングが必要なのかを、個人の経験やスキルに応じて具体的に示すことが大切だ。リスキリングすべき内容は産業によって、また個人の経験によっても異なる。その人のキャリアや興味関心、すでにあるスキルを把握し、個々人に合ったきめ細やかなプランを考えるべきだ。どのような能力を身につけると、自身のキャリアはもちろん会社全体の発展につながるのかを見通し良く示すことは、従業員のモチベーションの向上につながる。学びのプログラムを提供するだけでなく、キャリアカウンセリングの機会の提供なども通じて、従業員が経験やスキルを棚卸しし、自分自身を理解するための支援により力を注ぐべきだ。
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第三のポイントは、リスキリングした社員が社外に出ていく可能性も認めたうえで、リスキリングの機会を大胆に提供することだ。数年前までは、日本の大企業は定年まで働き続けるであろう社員を優先的に教育する傾向があった。しかし今はもう、育てた人材を自社で囲い込むような時代ではない。

仮に社費でリスキリングした社員が転職したり退職したりすることになっても、「その人がより成長し、発展するなら」と割り切って後押しする姿勢が求められる。なぜなら、このような姿勢を社内外に示すことが結果的に、優秀な人材の採用につながると考えられるからだ。自社を離れた人が、社外から新たなビジネスの機会をもたらしてくれることも期待できる。囲い込みの意識を手放し、幅広い視野で能力開発を後押しし、自社の中長期的な発展につなげるという視点をもってほしい。

「アンラーン」こそリスキリングの第一歩

──そうはいっても、「当社のお金でリスキリングしておいて、転職するとは何事か」と考える経営者も多いのでは。

柳川:確かに、一昔前までは「先生の言うことはわかるが、外に出ていく人を教育することなどできない」と語る経営者もいた。だが、ここ数年で経営陣の意識が急速に変わってきている。背景にあるのは人手不足の深刻化だ。リスキリングの機会が充実していることが、優秀な人材を呼び込むうえで魅力的なツールになると考える経営者は急速に増えている。
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構成=瀬戸久美子 イラストレーション=オリアナ・フェンウィック

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