「セキュリティ企業」への進化
「2022年から2023年にかけて暗号資産が下落した当時は、すべての社員を解雇して市場が回復するのを待つか、投資を続けるかの選択を迫られた。それでも我々は投資を続けることを選んだ」とゴーティエは振り返る。「取締役会から何度も本当に確信があるのかと聞かれたが、私には自信があった。強気相場の始まりにはすべてのプロダクトを用意しておくべきだと思っていた」Ledgerは今、暗号資産を超えた領域に乗り出し、デジタルのセキュリティを再定義しようとしている。同社が10月にリリースした最新機能の「Ledger Sync」は、ユーザーのLedgerデバイス上で暗号化キーを生成することで、パスワードを中央サーバーに保存することから生じる脆弱性を回避しており、同社ですら暗号化キーにアクセスできない仕組みをとっている。
Ledgerは9月にもう1つの野心的なプロダクトの「Security Key」を立ち上げた。これは、指紋や顔認証などの生体認証や多要素認証(MFA)を用いて生成されるパスキーに対応するウェブサイトでLedgerのデバイスを使用するためのアプリだが、それと同時に、Ledgerが今後の10年間で400億ドル(約6兆円)規模に成長すると予測されている認証市場へ参入するための足がかりになるツールとも言える。さらに、AIによるハッキングやデジタルアイデンティティ詐欺の増加という課題への対応策でもある。
調査会社ベンチマーク・カンパニーのアナリストのマーク・パルマーによると、Ledgerのような暗号資産のコールドウォレットの市場は現在、数億ドル規模だというが、認証市場の規模はその数倍に及んでいるという。
Ledgerは、同社のデバイスが単なるハードウェアではなく、安全なサービスのエコシステムを構築するためのプラットフォームだと主張している。ソフトウェアを優先するソリューションとは異なり、Ledgerのハードウェアはオフラインで暗号鍵を生成し、リモートによる侵害のリスクを軽減する。「将来的には、Ledgerが国境を越えるためのツールになる可能性がある。対象となる市場規模はさらに拡大するだろう」とゴーティエは述べている。