米バンダービルト大学医療センターとオランダのマックス・プランク心理言語学研究所の研究チームは、米遺伝子検査企業23andmeや他のデータベースから提供を受けた遺伝子データを用いて、ディスレクシアとリズム感の悪さの両方に関連する遺伝子パターンを特定した。
この2つは、表面的にはまったく異なる特性に思えるが、言語の処理にはリズム認識能力が必要となる。詩や歌について考えてみても、言葉とリズムは密接に結びついている。そして今回の研究では、リズムと言語処理の両方に関与する遺伝子座を16個発見した。
この研究の出発点は、23AndMeが長年にわたって収集してきた膨大な遺伝子データベースだ。同社では遺伝子検査の提供にあたって顧客の持つ特性について尋ねており、その中にはディスレクシアの確定診断を受けているか、リズムを刻むのは得意だと思うかといった項目が含まれている。これらを遺伝子プロファイルと比較した結果、100万人を超える情報のサンプルが得られた。
一連のデータによると、ディスレクシアとリズム感はともに複数の遺伝子と相関関係にある。ディスレクシアに遺伝的素因があることは驚きではないかもしれないが、リズム感もまた、いくつかの遺伝子に関連している。
ディスレクシアとリズム感は脳内でつながっている
研究チームは、ディスレクシアとリズム感の遺伝的相関を比較し、それぞれの特性を持つ人に共通する遺伝的パターンを発見した。また、これらの遺伝子が脳のプロセスにどのように影響しているかを示す手がかりもいくつか見つけた。「特に興味をそそられたのは、リズムと言語の両方に関連する遺伝子変異が、脳内のオリゴデンドロサイト(中枢神経系内のグリア細胞の1つ)に豊富に見つかったことだ」とバンダービルト大学医療センターのレイナ・ゴードンは述べている。「オリゴデンドロサイトは、神経伝達回路を健全で丈夫な状態に保ち、脳の各領域間の迅速な信号伝達を維持する役割を担っている」
こうした比較研究で遺伝的関連性が見いだされたからといって、特定の遺伝子変異が必ずしもディスレクシアやリズム感の悪さの原因とみなされるわけではない。ただ、研究対象となったデータの網羅性からみて単なる偶然ではない可能性が高く、これは今後の研究の起点となる。たとえば、これらの遺伝子が脳細胞の結合にどのように影響していて、それが言語処理やリズム感の発達にどう関与しているのかを、より詳細に解明する一助となり得るのだ。
言語とリズムに関連性があることは先行研究によって明らかになっている。ディスレクシアに影響する言語処理を司る脳の領域と、運動を司る脳の領域には強い結びつきがあり、今回の研究結果から、今後の研究において検討すべき材料が得られた。
小さな一歩に思えるかもしれないが、これが神経科学の進歩のありかただ。神経科学とは突き詰めれば、私たちの脳が世界をどのように処理しているかという非常に複雑な問題を扱う大きな分野である。そして今、その一部に関与している可能性のある遺伝子の詳細が少しずつわかってきたところだ。
(forbes.com 原文)