一方、北朝鮮当局も、忠誠心に疑いがある家庭の子どもは基本的に「労働兵」として扱い、兵器などを扱わせないようにする。北朝鮮には独特の身分制度「出身成分」がある。北朝鮮政治を研究してきた韓国統一研究院の崔鎮旭・元院長によれば、2割が体制を支持する核心層、3割が忠誠心の比較的薄い動揺層、残る5割は体制側が信用していない敵対層だという。敵対層の子どもの場合、徴兵しても「労働兵」として扱われることが一般的だという。
また、前述の専門家は「戦闘力を持たせる兵士」に不可欠な条件は、軍上層部の命令や指示を絶対視する「純粋性」だという。この専門家は20年ほど前、南北軍事境界線近くの非武装地帯を訪れた。北朝鮮軍将校が専門家に「兵士の写真を1枚1枚撮ってやってほしい」と頼んだ。兵士のほとんどが、中朝国境地帯の慈江道や両江道など貧しい地域の出身者だった。徴兵期間は10年だが、遠方のため、兵役の途中で故郷に帰ることもできず、心配する家族を安心させるためだという。専門家が兵士一人一人を立たせて写真を撮影した。ある兵士は体を硬直させ、ある兵士はカメラを初めて見たと言って撮影されるのを嫌がった。この専門家は「上官の言うことに絶対に逆らわない、純粋で純朴な人たち」という印象を持ったという。
別の脱北者の一人によれば、北朝鮮兵士たちはロシア派遣について、「党中央軍事委員会の決定」だとして戦闘行為に参加する事実を事前に知らされていたという。この脱北者は、北朝鮮の内通者から聞いた話として「貧困から逃れるためには、戦争でも起きた方がマシだと普段から考えていた兵士たちだ。特段、嫌がる兵士はいなかったと聞いている」と語る。
ただ、ライダー報道官が予測したように、本格的な戦闘に突入すればどうなるかわからない。死傷者が相次ぐ戦場で、忠誠心を持ち続けることは至難の業だろう。20年前は「純粋な兵士」だったとしても、その後に携帯電話が広まり、韓国や米国の音楽やドラマの流入も続いている。1990年代に起きた大規模な食糧難「苦難の行軍」以降に生まれた世代は、国家の恩恵を受けたこともない。そもそも、忠誠心を期待する方が難しい。ウクライナ軍も情報戦を展開している。恐怖と貧しさから逃れるため、脱走する兵士が相次ぐ可能性は極めて高いだろう。
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