サステナビリティ関連の情報開示の流れがさらに加速している。それを受けて、3年目となる「大企業特集」のランキング上位の顔ぶれもかなり刷新された。本特集の5つのランキングを手がけたサステナブル・ラボCEOの平瀬錬司に、2024年版のランキングの注目ポイントや非財務情報開示の最新動向を聞いた。
今回の「ステークホルダー資本主義ランキング」の上位30社の顔ぶれを見ると、個性が際立つ「とがった」企業は上位に入らず、「従業員」「株主」「サプライヤー・地域」「顧客・消費者」「自然資本」の5つの項目で満遍なく高評価を得た優等生的な企業が並んだ。
だが、結果を細かく見てみると、業界によって従業員の平均スコアに違いが出たのが興味深い。非製造業の平均スコアは86.8で、製造業の79.6を上回った。非製造業は工場や製造ラインをもたず、人的資本が最も重要な資産であるがゆえにこのような差が生まれると考えられる。
一方、サプライヤー・地域については、製造業の平均スコアが69.6、非製造業が61.9と、製造業が非製造業の平均スコアを7.7ポイント上回った。特にトヨタ自動車や小松製作所、アドバンテストなどが当該項目で高い評価を得ている。じっくりと時間をかけてサプライヤーや地域との関係を構築することが、製造業の競争力の源泉となっていることの表れだろう。ステークホルダー資本主義ランキングは、各企業の個性やこれまでの経営資源の配分を浮き彫りにしていると考えられる。
総合力が高い企業は中長期で「勝てる」
サステナビリティ評価においては、情報開示の透明性が何よりも重要だ。企業トップが自ら責任をもち、意味のある充実した内容を開示しているかどうかが各ステークホルダーからの評価に直結する。ステークホルダー資本主義ランキングは今回で3回目だが、多くの企業が22年度から23年度にかけて中期経営計画を刷新した。経営資源配分の入れ替えが一定程度起こったのと同時に、多くの企業がより多彩なデータや方針を公開するようになった結果、上位企業の顔ぶれに大きな変動が生じた。
今回のランキングでは、生物多様性や水資源に関するポリシーの開示、サプライヤー監査のポリシーの開示、スチュワードシップやリスキリングを含めたイノベーションマネジメントなどの項目を評価対象に加えた。これらの項目は、今年になって情報開示を始めた企業数が増え、より精緻な分析が可能になった。
今回新たに加えたランキングのひとつが「リスキリング」だ。多くの企業が従業員の再教育を進めているが、ランキング結果からは、危機感が強い業界や企業ほどリスキリングの重要性を打ち出しているとの印象を受ける。
例えば、長年にわたり特定の看板商品に頼り続けてきた企業は従業員の成長が滞りがちだ。だが、時代が変わり、今後も盤石さを維持できる保証はない。社員のリスキリングを通じて、時代とともに進化を遂げる企業に転換することが急務だという、焦燥感にも似た強い意志が読み取れる。
サステナビリティ経営において、従業員、株主、サプライヤー・地域、顧客・消費者、自然資本という5つの項目すべてで高スコアを維持する企業は、中長期的に安定した成長が期待できると考えられる。そういった企業は、たとえ社会や株式市場が不安定な状況に置かれたとしても、各ステークホルダーがその企業を高いエンゲージメントで支え、その影響を最小限に抑えることができるのだ。
平瀬錬司◎国内最大級の非財務データプラットフォーム「TERRAST」、ESG経営業務を高度化するSaaSツール「TERRAST for Enterprise(T4E)」を提供するサステナブル・ラボのCEO。「一般社団法人サステナビリティデータ機構」代表理事。