カルチャー

2024.12.11 13:30

日本文化の真の伝播:川村雄介の飛耳長目

ホストファミリーのロベルタが「今夜8時前にうちに来てね」と言う。シアトル郊外の彼女の家に赴くと、家族と親戚が集まっていた。全員がテレビの前に陣取っている。しばらくするとテレビの画面から、Starring Richard Chamberlain and Yoko Shimada ! と流れた。1980年秋、全米で人気のNBCのテレビドラマ、SHOGUNであった。リチャード・チェンバレンは、私の小学校時代に日本でも吹き替えでテレビ放映された「ドクター・キルデア」の主演俳優、島田陽子さんは当時日本で著名な女優だった。
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私は、SHOGUNの所々の場面の説明を頼まれたのである。セリフはほとんど英語だが、ドラマのなかで演じられる侍たちの所作や場面設定が、米国人には良く理解できないからという。残念ながら、米国人にわからない場面は、日本人の私にも説明しようがなかった。なぜならそんなシーンは日本でもないからだった。それでも以前の「フジヤマ、ハラキリ、ゲイシャ」のイメージよりはマシだったが。

この当時、米国で日本は破竹の勢いだった。道路には日本車があふれ、家電は日本製、カメラ店を経営するロベルタの夫は、キヤノンの一眼レフを自慢気に首からぶら下げていた。

しかし、日本文化への理解はまだまだだったし、日本側にも日本文化を売り込もうという姿勢はさほど強くはなかった。何より製造業が元気だったから、海外ではモノで稼げばよかった。
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21世紀に入ると、日本の成長率が低下する一方で、中国が台頭し、新興国の勢いも増していった。もはや日本がハード一本で勝負できる時代ではなくなった。日本に先立って元気をなくしていた英国は、自国のソフトで稼ごうとクールブリタニアを打ち出してきた。日本政府はこの発想に飛びついた。日本の文化は海外で人気だ、これを本格的にマネタイズしない手はない、というわけである。クールジャパンが叫ばれ、政府もその後押しに国費を投入する戦略に打って出た。

クールジャパン戦略の評判はあまり芳しくない。特に国が出資する事業の成功例が少なく、かなりの損失も出しているからだ。10年をかけて赤字のプロジェクトなど明らかに失敗だと判断される。
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文=川村雄介

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