印象的な出来事が、本年度のエミー賞を独占したリメーク版のSHOGUNだ。日本政府の出資はない。主演とプロデューサーを務めた真田広之さんのauthenticity(本物)へのこだわりが実を結び、冒頭のSHOGUNとは段違いに違和感のない出来栄えになった。出演者の多くが日本人でセリフも過半が日本語だった。ナンチャッテ日本の描写はなく、日本社会の通奏低音のような文化的感性を描くことに成功した。
特筆すべきは、こうしたauthenticな日本が米国人に理解されたことである。そしてそのためには前作から40年の歳月を要した事実である。前作を共に見たロベルタの兄は在日米兵として日本駐在経験があったが、銭湯を「日本にはお湯のプールがあり、熱くて泳ぐと疲れたよ」と真顔で話していたものだ。
現在、海外で気を吐く日本のコンテンツ産業の市場規模は20年前の6倍になったといわれる。政府の支援と官民挙げた対応をもってしてもこれだけの歳月を要した。
文化の伝播と沈潜には長い時間がかかるものである。そこで収益を上げるためには、通常の投資とは異なり、とりわけ長い時間軸を用意すべきだ。M&Aや事業投資も成果が上がるまでには相応の時間が必要だが、目安は5~10年だろう。個別株式投資なら数年といったところか。けれども、文化への投資は、20年以上の期間を覚悟しなければならないし、そうでなければせっかちな投資などやめるほうが良い。また、国や地域によっては、短兵急な文化輸出は、精神的な侵略として警戒されることも少なくない。
企業経営の世界では、その成果を定量的に見える化するための手法や指標がヤマのように活用されている。DCFを筆頭にROE、ROIC、WACC等々が普通に語られる。文化のマネタイズにも定量化が有益だと感じるが、その際にはくれぐれも期間の長さに配慮したい。インフラ投資も長期間だが文化投資はより長い。
やはり文化は初めに儲けありきではなく、広がりあってから儲けがついてくる、という心得が大切なのだと痛感している。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。