「ひどい上司」に伴うコストは膨大だ。ビジネスニュースサイト「クォーツ」によれば、その経済的損失額は、米国で年間9600億ドル(約143兆円)以上、全世界では8兆1000億ドル(約1208兆円)を超えると推計される。
ひどいマネージャーの影響
ひどいマネージャー(中間管理職)は、その下で働く社員たちのやる気を削ぐ大きな要因だ。調査会社ギャラップによると、チームのやる気の70%は、マネージャーとじかに結びついていることが明らかになった。社員のやる気が低下してしまうと、波及効果によって大きな損失につながり得る。たとえば生産性の低下、離職率の上昇、回復困難な職場環境の悪化などが挙げられる。こうした統計があるのだから、企業側はひどいマネージャーたちをなんとかして排除しようとするはずだ、と考える人もいるかもしれない。ところが、無能なマネージャーは依然としてそこらじゅうにいる。実際、ギャラップの調査では、企業が適切な志願者を選びそこなうケースは82%に上るという。
ひどいマネージャーがいなくならない理由
1. 「昇進の階段」に柔軟性がない
多くの組織では、キャリアにおける昇進の道が狭い。意欲があり、自分の役職では優れた能力を発揮する社員が、他の人を管理する立場になりたいとは思わない場合もある。しかし、そういう社員が成長するための選択肢が限られているケースが多いのだ。要するに、リーダーシップをとる気概やスキルをもっていなくても、昇進する方法は「個々の立場で貢献する一社員」からマネージャー職へ移行する以外に存在しないのである。こうした状況は、リーダーになりたいという情熱からではなく、昇給や肩書、地位を理由にマネージャー職につこうとする人を生んでしまう。
企業に対してリーダーシップ養成プログラムを提供するInstitute for Management Studies(IMS)の社長で、リーダーシップ問題の専門家であるチャールズ・グッドは、「個々の立場で貢献する才能ある社員をリーダーシップ職につけるだけではなく、従来の枠組みを超えたキャリア開発を可能にする別の道筋を提示し、こうした社員の強みを活用する方法を探るべきだ」と指摘する。