サイエンス

2024.12.04 15:00

ゾンビ菌、ハエを生きたまま食い荒らし、行動を操作する その生態

Henri Koskinen / Shutterstock

マインドコントロールに特化した生態

分子レベルで見ても、E. muscaeのゲノムには、宿主を支配するためのさまざまな武器が用意されている。この菌は、まず宿主の組織を分解する酵素、またおそらくは免疫系の防御機構を妨害する酵素をつくりだし、全身に感染を拡大させる下準備をする。
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感染が進むにつれて、ハエの血液脳関門が突破され、神経系のさらに精密な操作が可能になる。加えて研究者たちは、エクジステロイドUDPグルコシルトランスフェラーゼ(egt)と呼ばれるウイルス遺伝子に酷似した菌の遺伝子を発見している。これが、感染した宿主を高い場所に登らせる原因とされている。

E. muscaeの驚異の生態にはまだ続きがある。この菌は、単独行動しているわけではないのだ。E. muscaeが犠牲者を食い物にしている間じゅう、E. muscae自身も、ウイルスの1種(Berkeley entomophthovirus)に感染していることがわかっている。

このウイルスが、E. muscaeの活動にどれだけ影響を与えているのか、詳細はまだ明らかになっていない。しかし、これと近縁のウイルスは、昆虫の行動を操作することが、2024年8月に学術誌『G3: Genes, Genomes, Genetics』に掲載された論文で示されている。
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E. muscaeのゲノム解析により、こうした独特な菌類感染メカニズムについての理解は大きな転機を迎え、人類に役立つさまざまな応用の可能性も開かれた。研究者たちが特に注目しているのは、フェロモンを利用した生物的防除であり、さらにはメンタルヘルス治療への応用の可能性も指摘されている。

E. muscaeが示す、生化学・神経・行動に及ぶ宿主操作は、この寄生菌類の驚くべき(そして恐るべき)適応の証左だ。ハエの集団を壊滅させるほどのその威力は、自然界における進化を通じた洗練と効率化が、予想外の場所にも見られることを物語っている。

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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