NASAは、これまで米国人を月に送り、スペースシャトルを開発する中で、全米6カ所に38基のロケットエンジンのテストスタンドを設置した。その多くは、建設や改修に数億ドル(数百億円)を費やした巨大な構造物だ。しかし、現在ではロケット開発がスペースXのような民間の宇宙企業に委託されており、2026年までに使用されるテストスタンドは10基にとどまる見通しだ。
このテストスタンドは、NASAが抱える問題の縮図となっている。予算が十分にないにもかかわらず、雇用を守るために議会が削減を拒否している、老朽化した設備やシステムの広範なネットワークなのだ。そんな中、スペースXのイーロン・マスクの支援を受けて大統領選に勝利したドナルド・トランプは、政府の支出削減を掲げてホワイトハウスに復帰しようとしている。
共和党の宇宙政策の関係者によれば、トランプ政権は、過去数十年にわたって政治的に不可能とされてきた課題、すなわちNASAの10の主要なフィールドセンターのいくつかを閉鎖する可能性があるという。
「NASAには現在機能していない、大規模な施設がある」と話すのは、元共和党下院科学・宇宙委員会の委員長で、1997年の引退後にトランプ1期目の政権の宇宙政策に関与したボブ・ウォーカーだ。「閉鎖の可能性があるセンターは最大4つほどある」と彼は指摘した。
また、2016年にトランプのNASA移行チームに所属していた別の関係者も「NASAに10のセンターが必要ないことは誰もが認めている。問題は大統領がどの程度、積極的に行動したいのかだ」とフォーブスに語った。
8割が寿命を迎えたNASAの施設
NASAは、全米50州に53億ドル(約7940億円)相当の5000以上の建物や構造物を保有している。その維持費は、この機関の「高齢化」にともない増大している。NASAのインフラの半分は、アポロ計画のために1960年代に建設されたものであり、さらにその3分の1はそれよりも古い。NASAによると、物理的インフラの83%が寿命を過ぎている。メンテナンスの積み残しは33億ドル(約4940億円)を超え、毎年2億5000万ドル(約370億円)以上も増加している。非営利団体「プラネタリー・ソサエティ」の宇宙政策責任者であるケイシー・ドライヤーは「NASAは中規模の連邦機関でありながら非常に大きな政府の負担となっている」と指摘する。
しかし、施設を縮小しようとする試みは、過去30年にわたり地元の雇用を守りたい議会メンバーによって繰り返し阻止されてきた。「主要施設の閉鎖を単に検討することさえ、政治的に不可能だ」と、2005年から2009年までNASAを率いたマイク・グリフィンは2013年にSpaceNewsで語っていた。「議会が許さないため、実現不可能だ」