食&酒

2024.12.13 16:15

「酒は罪」は昔話? インドに飲酒人気到来、『フィナンシャル・タイムズ』にも

元来飲酒に不寛容なインドで、お酒の消費行動に変化が起きている。宗教的・文化的背景から、インドでお酒を飲むハードルは日本よりもずっと高い。酒類規制や販売ルールが厳しく、マス広告も禁止、独立記念日のように全国で酒類販売が禁止されるドライデー(禁酒日)もある。日本のようにコンビニでいつでもお酒が買えるわけではない。

世界最大のウィスキー消費国に


一方で、その人口規模からいまやインドは第三のアルコール市場にまで成長し、ウィスキーに至っては世界最大の消費国となっている。実際、多様な文化を内包するインドでは、飲酒に対する意識もさまざまというのが実情だ。グジャラート州のように飲酒自体を禁止している州もあれば、ムンバイ、デリー、バンガロールなど都市部のように飲酒に対して比較的オープンマインドな場所もある。女性の飲酒に対する視線は特に厳しかったが、都市部では女性が飲みに出かけることも一般的になりつつある。

近年人気が上がってきているのが、カクテルやワインだ。筆者がインドを訪問した少し前にデリーとムンバイを訪問していた世界的ワイン評論家であるジャンシス・ロビンソン氏は、後日発表した「フィナンシャル・タイムズ」の記事のなかで「懲罰的な輸入関税にも関わらず、裕福なインド人の間では、かつてメジャーだったウィスキーから、カクテルやワインに人気がとって代わられている。ワインの品質は、以前訪れた2017年以降、かなり良くなっている」と指摘している。

インドで高まるカクテル熱


実際に行って驚いたのが、モダンなレストランにかなりの確率でバーが併設されていることだ。それだけカクテルの人気が高まり、ダイニングシーンの一部になっているということだろう。

「アジアのベストバー50」「アジアのベストレストラン50」にも入っている「The Bombay Canteen(ザ・ボンベイ・キャンティーン)」は、ムンバイで勢いのあるレストラン&バー。車で10分の距離を渋滞で1時間以上かけて辿りついた夜は、バーカウンターもテーブルも超満員。インドの伝統的なサリーやクルタを来ている人はほとんどいなかった。ノリの良い音楽が流れる店内は、混沌としたムンバイの喧騒を肌で感じられる空間だ。
 

驚くべきはカクテルメニューの創造性とストーリー性、そして美しさだ。「Make Mine A Bombay」と題した第5版のカクテルブックは、「ボンベイは街ではない、感情だ」という言葉からインスピレーションを得ている。例えば、マリーゴールドであふれる早朝のダダールの花市場、人気の南インドレストランの行列、渋滞にはまった深夜の車中で抱擁するカップル……そのカクテル群には、ボンベイでの日常、ボンベイの街そのものが詰まっているのだ。

ムンバイの渋滞をカクテルで表現。大いに納得

ムンバイの渋滞をカクテルで表現。大いに納得



以前の版には、ボンベイのトーキー映画のガイドブックを兼ねたカクテルメニューや、ムンバイのスラングを表現したものなども。単なるカクテルの域を超えた作品群からは、ムンバイ、そしてインドへの溢れんばかりの愛が感じられた。実は筆者、以前にインドでお腹を壊して3日間寝込んだ経験があり、途中まで氷入りカクテルに挑戦できなかったのだが、もっと早くにいろいろ試さなかったことを激しく後悔した。

次ページ > アーユルヴェーダを取り入れたカクテル

文=水上彩 編集=石井節子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事