そんな同社だが、リーマンショックなどの度重なるピンチを乗り超え、業務改善などの効率化や経営の透明化を追求した結果、会社は大きく成長し6年連続増収増益という快進撃も達成した。一方、並行して深刻な課題に直面する。それが新卒社員の離職率だ。入社3年以内にほぼ100%が退職してしまう状況に、同社の高橋直哉社長は頭を抱えていた。このままでは会社が存続できない。この危機感を抱いた高橋さんは、思い切った改革に乗り出すことを決断する。
本記事では「BE THE LOVED COMPANY REPORT 2.0(経済産業省近畿経済産業局)」にて紹介された、同社の変革、そして社長が弱みを見せたことで生まれた経営層・社員の全体最適思考が、同社の成長にどのように寄与してきたか、ロジックモデルを紐解きながら考えてみたい。
1. 経営者の弱みこそが、社員が成長する原動力:改革の哲学
カルモ鋳工の代表取締役である高橋さんは同社の2代目社長だ。親戚である創業者から後継者の打診を受け就任した。現場からの叩き上げとして、一から経営を徹底的に学び直した。しかし、企業としての業績は成長を続けていく一方、社員の離職は続く現状に会社としての持続性に危機感をもった高橋さん。理念経営を追求される数多くの企業の経営を改めて学び、これまでの経営に「自身の価値観の押し付けがあったのではないか」「今の若者の価値観にあった働き方を提示できていないのでは」ということに気がつき、大きく2本の改革の柱を立てた。
1つ目の柱は、従来のトップダウン型の経営からの脱却と経営陣・社員への権限委譲だ。高橋さんは「経営者として完璧である必要はない。むしろ、弱みを見せることで、社員が主体的に考え行動できる環境を作り出すことが重要だ」と語る。
2つ目の柱は、社員全員が全体最適を意識した働き方の実現を目指すため、会社の全ての業務を可視化することだった。ちょうどコロナ禍で少し会社の稼働に余裕ができたタイミングで、経営陣が中心となって全社員が参加する勉強会を開催し、現場目線から見えていた部署ごとの業務量を把握することで、業務負荷の平準化の必要性を社員自身が認識した。加えて、これまでは自らの部署での活動のみが評価対象になっていた人事評価体系を、他部署への応援も評価する体系に変更。他部署からの応援が自主的に起きるようになり、結果として業務負荷の平準化に繋がった。