しかし、このようなリショアリング(生産拠点の国内回帰)が、トランプが望む規模と速度で起きる可能性は低く、そもそも実現するかも不透明だ。また、仮に実現したとしたら、その政策の主要な恩恵を受ける国は、ベトナムになるという見方が浮上している。
「以前は中国で作られていたものが、これからはベトナムで作られるようになるだろう。現地の製造業の仕事は、米国には戻ってこない」とミシガン州立大学でサプライチェーンを研究するジェイソン・ミラー教授はフォーブスに語った。
1期目のトランプ政権では、アップルやフォックスコン、インテルなどの大手企業が、製造拠点の多様化を図るためにベトナムへの移行を開始した。今年9月にはスペースXがベトナムに15億ドル(約2170億円)の投資を発表した。また、トランプ・オーガニゼーションでさえも、15億ドル規模のベトナムの高級不動産プロジェクトを発表した。
ベトナムは、インドのようなアジア地域の競合国に対していくつかの優位性を持っている。同国は、一党独裁体制のもと、ビジネスに有利な政策を迅速に打ち出せることに加え、地理的条件にも恵まれている。ベトナムにはすでに世界の港湾取扱量トップ50に入る港が3つあり、中国との貿易や物流も容易だ。また、シンガポールを除けば唯一、欧州連合(EU)と自由貿易協定を結んだアジア地域の国でもある。
トランプはここ数カ月、米国の製造業を後押しするための関税の導入を主張しており、メキシコや中国を名指しして、重い関税を課そうとしている。しかし、ベトナムは成長の機会を見出している。
「ベトナムがこの波にどれだけうまく乗れるかによって、軽い成功にとどまるか、それとも大きな成功を収めるかが決まるだろう」と、かつてベトナムの首相のアドバイザーを務めたインディアナ大学のアン・ゴック・トラン教授はフォーブスに語った。
製造業の「海外移転」は止まらない
トラン教授は、ベトナム政府に対する提言を準備中だと述べている。ベトナムは、外国資本の大量流入によって2045年までに先進的な高所得国へと変貌することを目指しており、彼の提言は、多国籍企業の誘致と、高付加価値製品への注力を主なテーマとしている。「アップルを誘致すれば、関連する多くのサプライヤーがベトナムに集まってくる。この国は、従来のアパレルやスニーカーの製造ではなく、バイオテクノロジーや人工知能(AI)、半導体に焦点を当てるべきだ」とトラン教授は語った。