「男性はデート代をおごるべきか?」という論争が近年起こっている。
デート代をおごらない男性は、なぜカッコ悪いといわれるのだろうか。特に初デートのときには男性がおごるという行為が、女性に対する思いや、今後、ふたりの関係を進展させたいという気持ちを示すことになっているのは、いったいなぜなのだろうか。
社会には、理由はよくわからないけれどその社会で生きる多くの人々が守るべきと考えるルールがある。社会学では、それを「規範」と呼んでいる。この規範を破ったからといって何らかの法的な罰則があるわけではない。しかし、多くの人がそのルールに従ったほうが良いと思っていたり、あるいは絶対に従わなければいけないと思っていたりする強制力のあるものもある。
デートの際に「男性がおごらなければいけない」という人々の考え方も、「おごり規範」とでも呼びうる恋愛関係にみられる規範のひとつとなっている。長い時間をかけて繰り返される行為のなかで、こうした規範はかたちづくられてきた。
「リード規範」実践と恋愛アドバンテージ
では、現在、上記の規範を守らなければいけないと考える人は、実際にどのくらいいるのだろうか。直接「男性がおごらなければいけないのか」を尋ねたものではないのだが、この規範を包摂し、主に男性側に課せられている「デートは男性がリードするべき」という規範意識(「リード規範」)の項目を検討してみたい。若年層の研究を行う社会学者のグループ・青少年研究会が2022年に行った全国調査のうち、16~39歳までの独身者のデータを使用した分析によれば(注1)、「デートは男性がリードすべきだ」という考え方を支持(「そう思う」+「ややそう思う」)するのは46.8%、支持しない(「あまりそう思わない」+「そう思わない」)のは53.2%であった。支持する人としない人でおおよそ半分に割れている。
補足として、夫は外で働いて稼ぎ、妻は家庭を守るべきだという家庭内の性別役割に関する意識についても確認しておこう。前述の全国調査によれば、「家事や育児は、夫ではなく妻が中心的に担うほうがよい」の支持率は15.6%、「一家の家計を支えるのはやはり男性の役割だ」の支持率は36.7%で、支持しない派が多数を占めている。
男女共同参画白書(令和3年版)(注2)でも、近年になるにつれて「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方を支持しない人が多数派になっている。このような傾向からすると、日本社会ではもう性別役割分業のあり方が十分に是正されたかのようにも見える。
一方で、先ほどのデータでは「デートは男性がリードすべきだ」の割合が、支持/非支持でおおよそ半数に割れていた。では、どのような人が恋愛関係のリード規範を支持するのだろうか。
注1:調査概要については青少年研究会のHP( http://jysg.jp/)を参照のこと、注2:男女共同参画局「男女共同参画白書(平成30年版、令和3年版、令和4年版)」