訪れたゲストを街にナビゲートするコンシェルジュは、「銀座マキシム・ド・パリ」で経験を積んだ熊澤由美氏。京都に長年在住しているコンシェルジュとして、通常非公開の寺院の拝観や座禅、芸舞妓の手配、部屋に仕出料理を依頼するなど、それぞれの好みやライフスタイルに合った体験をサポートする。
こういった建築に手を入れるのに際して、気をつけるのは「元の建築の形」と「現代のライフスタイルに合った快適性」という一種相反するものを守ること。それはさながら「文化のデザイン」ともいうべき過程だ。
私たちの目にふれる日本の名刹や邸宅の姿は、必ずしも作られた当初と全く同じものではない。何世代にもわたって継承されるなかで、時代に合わせた適応をしていった結果である。人間の一生涯の長さを遥かに超えて、昔から受け継がれて生きてきた建築に私たちが感動するのは、時代ごとにその建物を慈しみ、建物の「命」を守ろうとした人たちの思いが感じられるからでもあるのだろう。
ホテルを運営するバリューマネジメントの担当者は、「海外資本がこういった物件を購入して、私たち同様、ホテルなどに改装するケースが最近増えているが、外観は保っても、内装の手仕事や文化的な重要性に気付かず、古臭いとすべて壊してしまうケースも少なくない。日本の文化的な資産である建築を改装するのなら、国籍の如何を問わず、文化を正しく理解する人たちの手で行われるべき」だと感じているという。
「安い円」の後押しもあり、日本が未曾有のインバウンド観光ブームに沸く中、オーバーツーリズムの問題もある。バリューマネジメントでは、これまで「何もない」と考えられてきた場所に新たな価値を生み出す取り組みも行っている。
その一例が、2019年に愛媛県大洲市でスタートした「大洲城キャッスルステイ」だ。観光庁は2020年から、歴史的な城や寺を使いながら守ろうと、それらに宿泊する「城泊」「寺泊」を推進しているが、同社ではそれに先んじて展開してきた。