儚さと希望を時の流れに乗せて
自分で集めた様々な素材を組み合わせて創作する丹羽海子は、「ダフネのクローゼット」を制作。アメリカのセカンドハンドショップで見かけるブリタニアピューター(合金)の置物を溶かし、新たにひょろりとした人形“ダフネ”をつくり上げ、草花を纏って展示空間に生命を吹き込む。
「私のつくるものは、脆くて壊れやすい作品が多いですが、それは自分がトランスジェンダーとして成長していく過程の儚さや弱さといった経験から来ています。トランスジェンダーのコミュニティも、強固な関係を築きにくく、なかには自ら命を経ってしまう人もいます。今回の作品は、オープニングの日には素敵に見えても次の日には枯れ、さらに時間が経つとバラバラになっていきます」
ステレオタイプな性別の役割を与えられた少年少女の置物や、朽ちていくリアルな植物が、日常にあふれる小さな違和感や生命の儚さを伝える。
機能も用途もなく共鳴するオブジェ
小林椋は、事物に対して物理的な装置や動きを組み合わせることで生まれる飛躍や違和感を観察し、彫刻やインスタレーションを制作するアーティストだ。本展では、消費社会の中で反復される造形的なイメージを参照し、元の機能や意味から切り離された「無名の」オブジェクトをつくり出した。「1930年代、石炭をつくる際に出る“コールタール”が公害問題を生じるゴミだったため、どうにか他の形で活用できないかと研究を重ねて生まれたのがベークライトという合成プラスチックです。たまたま生まれた物質が線にも形にもなる魔法の素材として、20世紀初頭には今までになかったような造形が生まれています」
展示されるオブジェはライトが灯っていたり、映像や環境音が流れていたり、どこか身に覚えのある形を有していたり。小林は、「人間の生産性を高めるために自然の音やアンビエントの音が生活に入ってきていること自体が再魔術化ではないかと思います」と話す。
表面的には見えてこない小さな変化や違和感、そして社会との繋がり。銀座の喧騒から一歩足を踏み入れると、日常に隠れた魔術を再発見できる。