この仕様機は、いったん月に赴いたら地球には戻らないため耐熱タイルは必要なく、代わりに機体表面には太陽電池パネルが貼られる。月面に着陸するためランディングギアが必要であり、また、機体上部にあるハッチからクルーや資材を下すリフトが装備されるなど、ブロック2からの仕様変更は多い。11月初旬にはスペースXによってそのキャビンのモックが公開されているが、機体開発の具体的な進捗は聞こえてこない。
型式を問わず、スターシップにおいては実証すべき課題が山積している。基礎的なものとしては地球周回軌道での無人フライトと有人フライトがあり、他の宇宙船オリオンとのドッキングテストや、前述したタンカーからの推進剤補給のテストもある。
これらの実証テストをすべてクリアすれば月へ行く準備が整うが、スターシップHLSの場合は月着陸機としての実証テストがさらに続く。無人での月面着陸テストは2026年に予定されているが、その数カ月後の同年9月にはヒトを乗せて月面に降りることになる。現在の状況と残された課題を思えば、それが現実的でないことは明らかだ。
米大統領による予算教書は毎年3月に勧告され、その一部であるNASAの予算要求も同時に開示されるが、その付随資料としてアルテミス計画のスケジュール表も公表される。
バイデン政権下では毎年のように月面着陸は後ろ倒しにされてきたが、そもそもアルテミス計画は、2017年にトランプ前大統領が宇宙政策指令1に署名したことに始まる。4年ぶりに返り咲いた彼がこの状況を鑑みて、計画延期にサインするのか、それとも遅れを取り戻すべく推進するのか、その判断にはマスク氏の進言も大きく影響するに違いない。