「私はずっとほかの人のために物を売ってきたので、まさか、その自分がCEOになるなんて」
だが、そのまさかである。2024年6月、ハリウッド俳優でモデルのブルック・シールズ(59)が350万ドルを調達し、ヘアケア会社「Commence(コメンス)」の創業者兼CEOに就任したのだ。
もちろん、シールズが大きな話題になるのは初めてではない。1978年に公開されたルイ・マル監督の映画『プリティ・ベビー』では12歳ながら娼婦の役を演じ、賛否両論を巻き起こしている。15歳のときには、カルバン・クラインのジーンズの広告キャンペーンに出演。「私とカルバンの間に何があるか知りたい? 何もないわ」というキャッチフレーズで、同社の“顔”になった。カルバン・クライン(81)は、シールズの魅力についてこう語る。
「彼女はホンモノだよ。信頼できる人はそう多くないものだが、彼女が言うことは当てにできる。本気でそう思っていて、それを信じていて、人々のために何か良いことをしたいと思っているんだ」
その意欲が、シールズをコメンス創業に突き動かした。コロナ禍のとき、40歳以上の女性のためのオンライン・コミュニティを立ち上げた彼女は、「美容業界の眼中にないみたい」という参加者たちの声を耳にしたのだ。「ある年齢に達すると、突然、自分に価値を感じられなくなってしまう感覚があったのです」とシールズは語る。白髪の質感、頭皮の乾燥、髪の成長の遅れなど、中年期に起こるヘアケアに関する具体的な質問も多かった。だが、彼女たちは文句を言っているわけではなかった。「問題を解決してほしかったのです」(シールズ)
そこで米百貨店メイシーズや米下着ブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」からベテラン幹部を採用し、ドライシャンプーとリーブインコンディショナー、美容液を発売した。売り上げを見積もるには時期尚早だが、シールズには期するものがある。
「『ブルック』の名前を付けていないので、製品そのものに魅力がなければ生き残れません。このブランドは永久に生き続けなければならないのです」
ブルック・シールズ◎1965年、米ニューヨーク生まれのハリウッド俳優兼モデル。『プリティ・ベビー』『青い珊瑚礁』『エンドレス・ラブ』などの映画に出演し、一躍、人気俳優の仲間入りを果たす。資金調達した際、あまりにも多くの男性ベンチャー投資家が起業について講釈を垂れることに辟易したという。「ある日、こう言っちゃいました。『言いたいことがたくさんあるのはよくわかりました。でも私が今、欲しいのはあなたの助言ではなくてお金なんです!』」。