以下はその一例としての、セーラ・パーソンズ氏による寄稿である。
パーソンズ氏は日本に詳しい英国人として英国CNBCニュースにインタビューされ、そのコメントは英有力紙「The Times」にも引用された。彼女は日本に進出を考える英国企業へのコンサルティングを行う「イーストウエスト・インターフェイス」マネージング・ディレクターで、在英国日本大使館主催の「英国ジェットプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)同窓会」英国会長でもある。
ゲームファン、アニメファンに走る「動揺」
ソニーは、第二次世界大戦後にはテープレコーダーやラジオ・トランジスタの生産を、1980年代にはリーディングカンパニーとしてエレクトロニクス業界や消費者向けハードウェア製品を牽引し、その後は、ゲームやエンターテインメントなど、時代に合わせて高収益を見込める分野に注力しつつ事業部門を次々と再編成した。そのことから同社はしばしば、「事業転換」の究極的な成功例を同時代に見せてきた企業であると評価される。
世界初のポータブルオーディオプレイヤー「ウォークマン」で音楽業界に大革命をもたらしただけでなく、フィリップスとコンパクトディスクを共同開発し、現在では世界最大級の音楽機器メーカーとなっている。 また、ゲーム機市場でもその存在感は健在で、世界のゲーム機市場で70%のシェアを誇ると言われている。 最近発売されたPS5のアップグレード版、PS5Proは、同社のゲーム・ネットワークサービス部門の利益を約3倍の9億900万ドルへと押し上げた。
同社の多様なビジネスモデルの下で戦略的に手を組み、共同開発することは多くの企業にとってメリットが多い。そのため、ソニーはアニメ・ゲーム分野で多くの企業を買収してきた。
とはいえ、同社が日本のエンターテインメント業界大手、KADOKAWAを買収する方向で交渉中という今回のニュースは、ゲームファン、アニメファンの双方を動揺させた。今回の事案は日本だけでなく世界規模でゲームやアニメ業界全体に大きな影響を与えるだろうと予測するコメンテーターもいる。
プレイステーション専用になる?
懸念にはさまざまあるが、ひとつにはプレイステーションの問題がある。(ソニーの子会社が開発するゲームはかならずしもプレイステーション専用ではないが)KADOKAWAがすでに傘下に納めている企業が開発した人気ゲームが、買収後はプレイステーション専用になるのではないかという懸念だ。アニメに関しては、ソニーがアニメ業界を独占し、アニメの多様性と創造性を狭めてしまうのではないかという声がある。 たとえば、以前、ソニーがアニメメディア会社クランチロール(そしてファニメーション)を買収した際は、両社の統合後、ファンがファニメーションのアニメのデジタルライブラリにアクセスできなくなるという事態が発生した。今回も同様のケースが懸念されている。
もちろん、戦略上、この買収がソニーの市場シェアを拡大させるのは間違いない。 同社はKADOKAWAの買収によって、アニメやマンガの膨大なIP(知的財産権)を得ることができるだけでなく、人気ビデオゲーム「エルデンリング」を開発するビデオ開発・出版社のフロム・ソフトウェア社を影響下に置くことができるからだ。