小川:公社であるアルスエレクトロニカの財源の約30%はリンツ市からの出資ですが、残り70%は自分たちで資金調達をしています。これは公共の文化機関にとっては珍しいことだと思います。これが実現できているのは、インテルやメルセデス・ベンツ、NTT、トヨタなど、既成概念から脱却し、新しいイノベーションを生み出そうとしている企業とコラボレーションをしているからです。
今、企業や政府は、オープンイノベーションのパートナーを必要としています。私たちは、コンサルティングはもちろん、プロトタイプを作成した上で新しい提案を持ちかけることも可能です。
社会に新しい考え方を提案するという私たちの文化機関としての使命は、企業や政府にも共通して言えることでもあり、その使命のためにも、経済的な持続性は必要不可欠なものです。
アセガ:アメリカの連邦機関である国立芸術基金(NEA)によると、2022年、クリエイティブ・カルチャー産業はアメリカ経済全体に1.1兆ドルの付加価値をもたらし、500万人以上の雇用を生んだとされています。この数字を見れば、アーティストが社会、経済に大きく貢献していることがわかります。
アルスエレクトロニカも実現しているように、寄付以外に資金を得る方法として、企業とのパートナーシップ構築は欠かすことができません。
例えばNEW INCでは、かつてのインキュベーションプログラムの参加者で、昨年『TIME』誌の「AI界で最も影響力のある100人」に選ばれたアーティスト、ステファニー・ディンキンスと人工知能を扱う大手テック企業との協業をしています。また、市場で販売できる商品を創出することも、資金調達の形のひとつとして挙げることができるでしょう。
── アーティストの中には、アートとビジネスの結びつきを強調しすぎると、芸術性が薄れてしまうのではないかというためらいや反発をもつ人もいるのではないでしょうか。
アセガ:アーティストが経済的な持続性について話し合うことは、一般的なことになってきていると感じています。
NEW INCでは、アーティストが自身のアートをどうビジネスに結びつけるかを学ぶプログラムを10年以上継続しています。そこでは、自分の仕事の中で越えてはいけない一線を見極めながら、プロジェクトを現実させるために何が必要なのか、戦略的な計画を立てること学びます。
アートとビジネスを結びつけるには、翻訳作業が必要です。NEW INCが協業している「EY metaverse lab」でも、パートナー、アーティストたちにこのことを率直に伝えています。お互いが快適に仕事ができるように、NEW INCのような機関が橋渡しの役割を担っています。