この数十億ドルで、製造当時1発100万ドル程度だったATACMSを米軍の在庫から多数ウクライナに供与し、その分を補充する費用を手当てすることは可能だろう。
ただ、米陸軍はATACMSのハイテク版の後継となるPrSM(精密打撃ミサイル)を十分に入手できるようになるまで、現在数百発のATACMSの在庫を維持したいと考えている。米陸軍は最近では2021年にも、1990年代初頭に製造された最も古いタイプのATACMSを無作為に試験し、ロケットモーターなどの部品が正常に動作するかどうかを確かめている。
ウクライナ軍はATACMSの在庫が少ないために、破壊すればロシア軍の能力に連鎖的に大きな影響が及ぶような、最も価値の高い目標に対する攻撃のためにとっておいているのかもしれない。英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の軍事アナリスト、ジャック・ワトリングは「長射程兵器を集中的に使用すれば、選別した目標に対して不釣り合いに大きな損害を与え、それによってロシア軍の防御につけ込む隙を生み出せる可能性がある」と解説する。
カラチェフの弾薬庫に対する攻撃は、ATACMSの効果的な使用の好例と言えそうだ。この弾薬庫を焼き払えば、クルスク州にいるロシア・北朝鮮部隊への弾薬供給が細り、この方面での火力に「隙」が生じるかもしれない。ワトリングは「問題は、生み出した隙をウクライナ軍が利用できるかどうかだ」と述べている。
ウクライナ軍がATACMSをより広いエリアで使えるようになったからといって、その子弾があちこちで雷雨のようにばらばらと降り注ぐことになるとは思わないほうがいいだろう。むしろ、ATACMSはこの先数週間、クルスク州とその周辺で、補給拠点や航空基地といった重要な目標に絞った攻撃に用いられると考えるべきだ。