20年前に創業したブレインパッドでは、企業のデータ活用を促進するなど、高橋隆史は長年データやAI領域に身を置いてきた。アートとのかかわりは、ときどき話題になる展覧会に行き、1、2冊の本を読んだことがある程度。アーティストとの面識はなく、「彼らはどうやって食べていってるのか」と思っていた。
交友関係も仕事中心だった高橋の世界は、2018年、フランス人画家ベルナール・フリズの作品を購入したことで一変した。
そもそものきっかけは、友人からの誘いでアートファンドへの出資したこと。一口数百万円で十数名が参加し、京都のアートホテルに飾る作品を購入するというもので「最初に聞いたときは胡散臭いと思った」が、世界的に見て小さい日本のアート市場を活性化させたいという思いに共感。それを機に出資メンバーで個展やギャラリーを訪れるようになっていった。
フリズの作品購入は、ほぼ勢いで決めた。「決めた後で、なんの実用性もないものに外車を買える金額を……と葛藤しました。サイズも確認しなかったので飾る場所もなく、ホテルに貸し出しました」。半年ほど悶々としていたが、ホテルのレセプションで著名なギャラリストやアーティストとその作品をネタに会話が弾み、価値を実感するとともに、新しいつながりが生まれていく楽しさを覚えた。
知識がつくと、物事の認識が変わる。パブリックアートにも目がいくようになり、アートが「見る対象」から「買う対象」に変わっていった。「幸せの尺度は選択肢の多さであると思っていて、アートがお金の使い道になるのは、確実に人生を豊かにする。ただ、ほぼ上限のない世界なので手を出せない苦しさも伴いますが」。とはいえ、アートは有名な作家の値のはるものばかりではない。高橋自身、応援の意味も込めて若手の作品を積極的に購入している。
起業家にアートコレクターが多いのは、もちろん経済的な面もあるが、アーティストの生き方にシンパシーを感じるからだと高橋は言う。「自分の美意識や価値観を証明するために、人生をかけて世の中に問う。起業家は会社が大きくなるに連れて仲間も増えますが、アーティストは孤独。よりピュアだから、応援したくなるのでしょう」。
作品や作家と出会い、驚き、共感し、一点一点購入していったら、いまや200点を超えるコレクションとなった。「それをもっているならこれも」と薦められることもあれば、あとあと好きな作家同士が師弟関係だと知ることもある。展覧会のタイトル「Collecting? Connecting?」は、ひとつの作品を媒介に広がる、そんな関係性を表している。
会期を目前に、「仕事であれば売り上げや利益などの数字で自分でも説明がつきますが、これは最後まで答えがない世界で、居心地が悪いですね」とはにかむが、定量では測れない価値を理解すること、短期的な見返りを求めない支援で文化の土壌を耕すことこそ、日本のソフトパワー強化に欠かせないとも考えている。
「それを知るためにもまずアートを買ってみる。買えば頭が動き出しますから」。