腸と脳のつながりは、気分、活力、そして、全体的なメンタルヘルスに劇的な影響を与える。このつながりを理解することで、心と体に良い選択が、情報に基づいてできるようになる。
研究によれば、腸と脳のつながりは、主に次の3つの方法でメンタルヘルスに影響を与える。
1. 腸脳相関が精神状態を左右する
腸と脳のつながりは、腸脳相関とも呼ばれる複雑な双方向システムだ。脳は、胃腸の働きに影響を与え、腸は気分、思考プロセス、そして、全体的なメンタルヘルスの状態に影響を与える。腸は、小さなバイオーム(生物群系)、つまり、何兆もの微生物がバランスを維持している生態系だ。このバランスが崩れると、身体的な健康だけでなく、精神的な健康も影響を受ける。この不均衡が、少しずつ体と心をむしばんでいくのだ。
腸内細菌には、食品に対する(人間の)渇望を引き起こす能力がある。つまり、その微生物が代謝を得意とする食品や、競合相手となる細菌を抑制する食品を、人間が「食べたくなる」ようにするのだ。2014年の研究によれば、特定の腸内細菌は、宿主の神経系を「乗っ取り」、自身の生存に必要な高脂肪・高糖質の食品に対してドーパミンの放出を誘発することで、宿主の食行動に影響を与えることができる。これにより、たとえその食品の大量摂取が宿主にとって不健康であっても、細菌の繁栄につながる食品を摂取するようになる場合があるという。
研究チームは、「腸内細菌は、自身の健康を増進する方向で宿主の食行動を操作するよう選択圧を受けており、ときには宿主の健康が犠牲になる」と説明している。
こうした渇望があると、健康的な食品を選ぶことが難しくなる。そして、体に良くないとわかっている食品を何度も口にする自分に気付くと、イライラしたり、自分自身に落胆したりしやすくなる。食べたいものと、食べるべきものとの内的葛藤は、自己批判につながり、自尊心に悪影響を及ぼす可能性がある。
渇望、屈服、罪悪感や敗北感というサイクルが繰り返されるうちに、自信が損なわれ、食べ物の選択について挫折感を抱くようになる。そしてその結果、ストレスや不安がさらに強くなる。こうした渇望には多くの場合、腸の健康に根差した生物学的な原因がある、と認識することで、これらの選択を意識的に行い、自分を思いやることができるようになる。
人の腸内細菌叢(そう)は適応能力が高い。『Nature』誌に発表された2017年の研究によれば、食事が変化すると、わずか3日ほどで、腸内細菌の構成に影響を与え始めるという。
食物繊維が豊富な食品や、プロバイオティクス(いわゆる善玉菌)、プレバイオティクス(オリゴ糖や食物繊維など、プロバイオティクスの食物として機能する化合物)など、有益な細菌の増殖を促す食品を摂取し、かつ、加工食品や、高脂肪の食品、甘いものなど、有害な細菌を支える食品を減らすことで、健康に悪影響を及ぼす細菌の増殖を抑えながら、健康的な細菌を増やすことができる。