同フォーラムを通じて情報発信はもちろんのこと、さまざまな組織をつなぐ「触媒」として、ステークホルダーを有機的に結び付けて共通課題に取り組む機運を高めることを企図している。
今回は2024年10月3日に気候変動をテーマに米国気候テックファンドと共同で開催したイベントのレポートとともに、同グループが果たす役割を聞いた。
社会課題解決を切り口に事業創造へ 金融機関が気候変動に挑む意義
地球温暖化を始めグローバルな社会課題が深刻化する中、その解決に向けた企業や投資家の貢献に期待が高まっている。三井住友フィナンシャルグループサステナブルソリューション部副部長の藤井慎介(写真上)は、自社が気候変動に取り組む背景について、次のように語る。「日本を含め、世界規模で脱炭素化へのコミットメントが広がっています。当社でも気候変動を始め、サステナビリティがお客さまの経営課題の中心に据えられることが非常に多くなったことを受け、具体的なソリューションの創出に努めてきました。お客さまにとって課題解決に向けて設備投資や技術進展に巨額の資金を必要とすることから、私たち金融機関が果たす役割は極めて大きいと考えています。我々はお客さまにとっての『脱炭素社会に向けた経営パートナー』となることを目指しています」
SMBCグループでは気候変動への対応として、温室効果ガスを可視化するデジタルプラットフォーム「Sustana」を自社開発したほか、エネルギー転換施策のコンサルティングなど、企業への提案を強化している。また、資金需要の高い脱炭素への移行を支援するため、トランジションファイナンスに関する自社定義・判断基準等を示した「Transition Finance Playbook」を国内でいち早くリリース。企業に寄り添ったソリューションの提供に努めてきた。
環境に対する各業界の取り組みが活性化する中で、脱炭素化への課題感を抱えている企業も多いと藤井は話す。
「例えば大企業はサプライヤー各社の排出量を把握することが難しく、一方でサプライヤーにとっては大企業の要請に対し正確に対応することが課題の1つとして挙げられます。SMBCでは、国内を代表する気候テック企業・アスエネ社との資本業務提携を実施。同社が提供する『アスエネESG』を通じて、CO2排出量も含めたサプライヤーからの一次データ収集およびサステナビリティ格付サービスの販売提携を行うなど、お客さまを支援しています」
国内外を問わず、高い専門性と技術への知見を有する気候テック企業は数多く存在する。自社で補えない機能を獲得するためには、外部に資金・リソースを投じるオープンイノベーションが有効な手段になるのだという。
23年、SMBCは米国気候テックファンドである「Remarkable Ventures Climate(以下、RVC)」に出資。RVCは、NY最大規模のアクセラレーターであるEntrepreneurs Roundtable Accelerator(以下、ERA)によって運用されている。ERAでは、革新的な気候変動対策関連技術を保有するベンチャー企業への投資や経営支援を続け、10以上のVC設立の実績を持つ。SMBCとも長年にわたる信頼関係を構築してきた。出資の背景について、藤井はこう話す。
「世界最大の気候テック市場である米国に注目し、まずはファンド運営者の“目利き力”から学ぶためにRVCに出資しました。現在、RVCが投資した有望な気候テック企業の先端技術を学び、SMBCグループのお客さまとの事業共創につなげる活動を推進しています。日米でRVCとのイベントを共催し、時流に合った質の高い情報提供を通じて、エコシステムの更なる拡大を目指しています」
事業規模や官民の枠を越えた気候変動に関するフォーラムを開催
「SMBC Sustainability Forum 2024 」の一環として、24年10月3日、SMBCはRVCと共同で「グローバル・スタートアップとのオープンイノベーションによる脱炭素ビジネス共創」と題したフォーラムを開催した。まず登壇したのは、RVCのManaging Partnerを務めるMurat Aktihanoglu。Aktihanogluは近年における気候テックスタートアップのトレンドを紹介。世界のベンチャーキャピタルへの投資額については21年にピークを迎えて以来増減を繰り返しながらも、直近では増加傾向にあり、気候テック分野のユニコーン企業も増えているとした。また、エネルギー分野におけるAI技術の重要性についても言及した。
「電子デバイスやEVの普及により、エネルギー需要が増加する中、重要になるのが『Grid Enhancing Technologies』です。これは既存のハードウェアを活用して電力の伝送能力を最大化する技術です。AIでデータを分析することで、エネルギー必要量を予想し、最適な供給が可能になります。この技術以外にも、大規模災害に備えたエネルギー貯蔵技術、強靭な農作物を開発する遺伝子技術、植林用ドローン技術、次世代ソーラーパネルなど、興味深い気候関連の事業が多く存在し、人類の未来に貢献しながら投資できる機会が豊富にあります」(Aktihanoglu)
「大企業とスタートアップの協業支援」セクションでは、東京都のスタートアップ・国際金融都市戦略室長を務める𠮷村恵一が登壇した。同組織は、国際金融都市構想や外国企業誘致、規制改革を推進する機能を持つとともに、スタートアップに関わるコア部門を集約する目的で23年に新設された。𠮷村氏は取り組みの具体例として、未来の都市像を体感できるイベント「SusHi Tech Tokyo」を紹介。国内外のイノベーションをつなぐ拠点として「Tokyo Innovation Base」を設立したことについても触れた。
続いてのゲストスピーカーは、サンフランシスコからオンラインでの参加となったActivate Globalの共同創設者Matt Price。15 年にカリフォルニア大学バークレー校から起業を志す研究者を支援すべく非営利団体のActivate Globalを設立。現在は、全米規模に活動拠点を拡大し、各拠点で資金提供者や大学・研究機関と提携して研究者をサポートしている。
「大企業によるスタートアップへの投資や共同研究の実施判断には膨大なプロセスが介在し、契約までに時間を要することが課題でした。そこで、我々は誰でも利用できる契約テンプレートを作成。順調にダウンロード数も増えており、企業とスタートアップの協業を円滑に進める貢献ができたと考えています」(Price)
また、Activateの支援プログラムに参加したスタートアップを代表し、NelumboのCEO Liam Berrymanがオンラインで登壇。同社は、家電製品や衣服といった日用品向けの素材として、環境負荷の低いメタマテリアル(人工物質)の実用化技術を開発。Activateの幅広い支援により、企業との共同開発、資金調達といった事業のスケールが可能となったと述べた。
今回のフォーラムでは、RVCが期待を寄せるスタートアップによるプレゼンテーションの場も設けられた。発表したのは、「Neutreeno」「Box Power」「Thea Energy」の代表者。
Neutreenoは、大企業のサプライチェーンを可視化し、Scope 3のGHG排出量とコスト削減を実現するソフトウェアについて発表。Box Powerは電力システムの最適化に伴う経済面・安全面の効果を、Thea Energyは安全でクリーンな代替エネルギー創出手法として、磁石を用いた核融合技術を紹介した。
大企業とスタートアップの事業共創事例を紹介するパネルディスカッションでは、サントリーホールディングス未来事業開発部 部長の青木幹夫、東急不動産ホールディングスグループCX・イノベーション推進部 イノベーション戦略グループ グループリーダーの佐藤文昭が参加。三井住友フィナンシャルグループ執行役員サステナブルソリューション部長である藤間正順がモデレーターを務めた。
ディスカッションでは各社の気候変動に関する取り組み事例や課題を共有するとともに、スタートアップと連携するうえで大企業に求められる心構えが語られた。
「環境関連のスタートアップのチャレンジは小規模なものも多く、大企業にとってなかなか収益が見込めない事業もあります。そのため、双方の目的を明確にするための目線合わせが重要です。また、海外のスタートアップと連携する際には、スケール感や法規制、ビジネス慣習の違いをローカライズする必要があります。こうした課題を克服しながら、環境問題の解決に取り組みたいと考えています」(佐藤)
「サントリーホールディングス未来事業開発部では、新規事業創出に向け、オープンイノベーションを推進しており、注力領域の一つが『サステナビリティ』となります。この領域のスタートアップとの共創で重要なのは、長期的な視点で、目下必要とされるのはスタートアップの技術革新と大企業側の出資や協業を通じたサポートで、スタートアップの持続可能なビジネス展開を、大企業がどのように支えるかを考えるべきです。」(青木)
気候変動の対応は大きなビジネスチャンスになる
世界と日本をつなぎ、大企業とスタートアップの接点を生み出した今回のフォーラムは、国内企業が気候変動という課題に取り組むうえでも示唆に富む内容となった。今後の気候変動への対策において、SMBCグループにはどのような活躍が期待されているのだろうか。改めて藤井に考えを聞いた。
「今回のイベントでは、投資家、行政、スタートアップ、大企業の方々にご登壇いただきました。このような座組みを通じてより良い関係性を生む契機を創ることも、幅広い業界のお客さまと接点を持つ金融機関の特色であり、今後も積極的に担うべきミッションだと考えています。加えて、気候テックに関しては、お客さまからのご相談に応じて出資・ファイナンスと合わせて事業共創につなげるためのマッチングを行っています。今後もこのようにステークホルダーの皆さまをつなぐ、質の高い“触媒”の役割を担いたいと思います」
気候変動は不可逆的であり、だからこそ本気で解決に向けて取り組みを加速することが尖った技術やビジネスモデルを生み出すなど、大きな機会にもなるだろう。脱炭素化、さらには日本経済の成長に貢献すべく、従来の枠組みに囚われないSMBCグループのチャレンジは続いていく。
SMBCグループサステナビリティサイト
https://www.smfg.co.jp/sustainability/
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