そんななか、音楽ストリーミングサービスSpotifyの幹部が、働く場所を従業員が自由に選べる「Work From Anywhere(WFA)」という方針の継続を発表し、「当社の従業員は子どもではない」と宣言して話題になった。ならば、IT大手アマゾンのように、オフィス復帰を推進する企業が今なお多いのはなぜなのだろうか。
「これは、オフィス勤務の義務化か、1週間の労働時間の短縮かをめぐる、雇用主と従業員の間のパワーゲーム(かけひき)だ。多くのことが、突き詰めればコントロールの感覚に帰着すると思う」と話すのは、行動科学者で「週4日労働」の推進に取り組む非営利組織4 Day Week Globalの最高経営責任者(CEO)デイル・ウィラハンである。
時代遅れとなった働き方のモデルを企業側が断固として変えたがらない本当の理由は、従業員をコントロールしたいからだ、と多くの人は考えている。しかし、ウィラハンの指摘からは、その奥に隠れた興味深い事実が浮かび上がってくる。それは、従業員と企業の力関係が変化していることだ。
起きているのは、まさにパワーゲームだ。そしてこの状況には、容易にコントロールできない「信頼」ならびに「忠誠」という、2つのドラマチックな要素が絡んでいる。
ウィラハンは、こう指摘する。「現在の経済情勢は厳しい。そして企業側は、従業員に問題があるのだと決めてかかっている。そこで、従業員をオフィスに呼び戻し、その成果を監視・評価することで生産性を上げようとしている」
ここで問題となるのは、従業員を抑え込むようなオフィス勤務の義務化は逆の効果を招くことが、引用しきれないくらい多くの研究結果によって示されている点だ。「柔軟性や自主性を阻むような働き方のポリシーはすべて、燃え尽き症候群を悪化させるだろう」とウィラハンは述べる。
企業はデータに耳を傾けず、代わりに自らの直感に従っている。とはいえ、20年前に効果的だったからといって、今もそうだとは限らない。なぜかというと信頼関係が壊れているからだ。