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2009年3月期の経営危機以降、事業ポートフォリオの入れ替えにより、成長分野に資源を集中させ、グローバル企業として見事な再生・復活を遂げた日立製作所。次なる成長戦略は、“One Hitachi”を掲げて取り組む事業ポートフォリオ間のシナジー創出の強化だ。
現在、日立は新たな成長戦略を支えるため、コーポレートIT部門の主導のもと、国内外の日立グループ向けに次世代経営・事業インフラの整備を進めている。
変革を牽引する日立製作所 執行役常務CIO兼ITデジタル統括本部長の貫井清一郎と、プロジェクトを支援するPwCコンサルティングのパートナー 内村公彦とディレクター 坂口博哉が、“One Hitachi”実現に向けたITの取り組みについて語り合った。
“One Hitachi”で社会イノベーション事業をグローバルに推進
内村公彦(以下、内村):日立がこれまで行ってきた事業再編や、社会イノベーション事業への転換・拡大は、日本を代表する大企業の再生モデルであり、日本経済の転換点として世界が注視しています。まずは貫井さんの立場から、これまでの経緯と日立が目指す方向性についてお聞かせください。
貫井清一郎(以下、貫井):日立が今の戦略に大きく舵を切ったのは、2009年3月期の連結最終損益で7,000億円を超える大きな赤字を出したことがきっかけでした。国内で製品・システムを提供する従来のビジネスモデルでは、将来が厳しいと判断した当時の経営陣が、新たな戦略を立案しました。それが、顧客や社会の課題を解決する事業「社会イノベーション事業」へ転換することでした。以来本日まで一貫して、社会イノベーション事業をどのように推進すべきかを、追求しています。
2024中期経営計画では、「データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現して人々の幸せを支える」をめざす姿として掲げています。近年では解決すべき社会課題も複雑化しており、人類が豊かで安全に成長するための地球の限界、「プラネタリーバウンダリー」に達しつつあります。またそこで暮らす私たちも、近年の価値観の多様化等から複雑な課題を抱えており、「ウェルビーイング」の実現が世界的に重要課題となっています。日立は、このプラネタリーバウンダリーを越えない社会の維持とウェルビーイングの追求が両立する未来の実現に向けて、デジタル技術や新しいソリューションなどを提供することで、社会課題の解決に取り組んでいきます。
貫井 清一郎 日立製作所 執行役常務 CIO兼ITデジタル統括本部長
内村:日立が世界に向けて社会イノベーション事業を標榜された意義がより深く理解できたように思います。では、社会イノベーション事業を推進するにあたり、日立はどのような強みを持っていると貫井さんはお考えですか。
貫井:日立の事業ポートフォリオにおいては、IT(Information Technology)、OT(Operational Technology)、プロダクトという3本の柱が大きな強みだと考えております。ITは事業に欠かせない要素であり、60年以上の歴史を持ちます。経営危機以降、事業の統廃合やグローバルな企業買収を通して、さらに事業を強化するためのポートフォリオの大胆な組み換えも実施してきました。OTは、エレベーターや発電所・配電設備、鉄道などを継続的に安全、安定的、かつ効率的に動かすための制御・運用技術です。そしてプロダクトは、日立の100年を超える歴史の中で積み上げてきた「ものづくり」の文化です。それらを掛け合わせることで、新たな価値が提供できるのが、日立の強みだと考えています。
坂口博哉(以下、坂口):それらの強みを持って日立が社会イノベーション事業を進める一方で、社内では、グループ全体として目標や価値観を共有し、事業ポートフォリオ間やIT、OT、プロダクト間のシナジー創出強化などを目指した“One Hitachi”という取り組みをされています。この“One Hitachi”の狙い、込めた思いなどをお聞かせください。
貫井:“One Hitachi”というのは、当社にとってきわめて重要なキーワードです。日立には多くの事業がありますが、近年の社会課題が複雑化するなかで社会イノベーション事業を推進していくためには、個別の事業、製品やサービスだけではなく、これらがひとつになって課題解決に向かう必要があります。つまり、社会イノベーション事業を日立の戦略の軸に置くと決めた時点で、“One Hitachi”というコンセプトが出てくるのはごく自然なことなのです。
ただ、これは言うは易しの典型で、実際に会社の運営として事業をまたいで“One Hitachi”でビジネスをしていくという変革を遂げるのは容易なことではありません。マーケティングや営業、事業をまたいだ人財活用など、多岐にわたる大きな取り組みが必要になります。私が担当しているITの領域においては、「次世代経営・事業インフラ」を再構築することで、「国内外の日立グループの経営層のために、グローバルな情報をいち早く集めて可視化することに加え、AIや各種分析技術を活用した将来予測を提供する」ことをミッションとして活動しています。
“One Hitachi”を実現するための次世代経営・事業インフラ再構築
坂口:次世代経営・事業インフラの再構築プロジェクトは、私たちPwCコンサルティングも支援させていただいております。このプロジェクトでは、“One Hitachi”をコーポレートIT部門としてサポートするために、迅速な経営判断に資するデータ収集・分析機能の実現を目指して基盤再構築を行っています。これまで個別の事業やセクターごとにIT投資を進めてきたなかで、なぜこのタイミングで、IT部門としてインフラの再構築に踏み切られたのか、その背景を教えてください。
貫井:全社共通の基盤をつくる理由は2つあります。ひとつは、セキュリティをグローバルで強固なものとして維持・強化することです。電力の送配電や鉄道などの事業は社会にとってミッションクリティカルですし、IT事業ではお客様の重要なデータを多く預かっています。各システムで個別にセキュリティ対策を行うとレベル差が生じ、スピードも不十分になりますから、IT基盤を集中管理し、有事に迅速に対策を打てる体制が必要なのです。
もうひとつは、データやツールの共通化により、生成AIなどの新技術を全世界でクイックに広範に活用することが可能になるという点です。可用性や安全性を確認したうえで、リソースを一箇所で管理して全員が使えるようにしておくことで、省力化や効率化、高度化に大きな効果をもたらすことができると考えています。
坂口:ありがとうございます。とくに後者については、経営判断に資するだけでなく、従業員全体のエンパワーメントにも効いていること、それを今回コーポレートIT部門で投資をして進められているということがよく分かりました。そのうえで、これまで個別のIT投資を進めてきたものを、コーポレートIT部門が責任をもつような形でシフトチェンジしていくということに対するさまざまな軋轢、例えば現場のレイヤーでは従来のやりかたを変えることに対する反発などもあったのではないかと勝手ながら想像をしております。これらをどのような工夫で乗り越えてこられたのでしょうか。
貫井:まず、日立のIT基盤を「Core(以下、コアIT)」「Common(以下、コモンIT)」「Distinct(以下、ディスティンクトIT)」の3つのレイヤーに分類しました。コアITというのは、企業活動の基本部分を担うもので、会計やEnterprise Resource Planning(ERP)、調達、セキュリティ、メールや社内の情報交換のためのコミュニケーションの仕組みなどが該当します。これらは、全社員、全事業が同じものを使っていきます。つぎのコモンITというのは、地域ごとの要請や商習慣、例えば税制の違いなど、全世界で統一ではないが、それぞれの地域内の会社は共同で使うべきものをさします。最後のディスティンクトITというのは、各事業が競争優位を目指してそれぞれで投資を行うべきITで、具体的にはサプライチェーンやロジスティクス、R&D、マーケティングなどが含まれます。
これらのうち、コーポレートIT部門として統一、標準化を目指しているのは、コアITとコモンITの部分です。これら2つは、全社でスピード感をもってコスト効率よくセキュリティもしっかり確保していく領域です。一方、ディスティンクトITは、セキュリティについてはコーポレートIT部門で監修しますが、事業部門がそれぞれの現場で判断してどんどん新しいIT投資を進めてもらう領域です。このように最初からITのレイヤーを分けて方針を出すことで、標準化などの改革が進みやすくなるといった工夫をしています。
内村:ディスティンクトITの部分の自由度を認めることで、一足飛びに共通のものを押し付けるのではなく、必要な部分の統一化を推進されているということですね。計算された明快なデザインが、人を動かし、その後のスピード感と効率化に弾みをつけています。
内村 公彦 PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー
社会、産業、個のウェルビーイングへ、シナジーを巡らせる
内村:さまざまな会話を通して、このような大規模かつ重要なプロジェクトをご支援できることを誇りに思うとともに、改めて使命感を感じています。貫井さんのなかで、“One Hitachi”を実現した先にどういった世界観をイメージされているのか、こちらについてもぜひ共有いただければと思います。
貫井:社内向けの世界観としては、標準化や統合化、セキュリティ強化、DXなどを進めることで、従業員が「便利になった」や「(データなど)見えないものが見えるようになった」と実感でき、まるで呼吸するような感覚でITサービスを使っている状況を、今後の挑戦の中で実現したいと思っています。
社外向けの世界観としては、様々な現場で働く方々、すなわちフロントラインワーカーが働く現場を生成AIなどのテクノロジーでサポートし、働く人が心身ともに健康な生活を送れるようなウェルビーイングな環境の創造を目指しています。先だってのHitachi Social Innovation Forum 2024 JAPANという顧客向けイベントの基調講演で代表執行役執行役社長兼CEOの小島が申し上げたことです。
企業レベルや社会レベルの問題を解決していくということももちろん大切ですが、個人の生活の変化も感じていただけるようなサービスにまで拡大できたら、日立自身も次のレベルに進んだことが実感できると考えています。
内村:社会、産業、それから最後に人という観点を大事にしていくというお考えに、非常に共感を覚えます。その思いに寄り添いご支援するとともに、私個人としても情熱を注ぎたいと思います。最後に、今後の私たちの支援に期待している点があればお聞かせいただけますでしょうか。
貫井:私は日立に入る前、コンサルティング業界に長く在籍していた経験から、3つのコンサルティングの力を重視しています。ひとつ目は「先進的な提案ができる力」で、これは個人というよりは会社の力に近く、会社としていかに多数の経験の蓄積があるかが鍵になります。ふたつ目は「お客さんに寄り添える力」で、正しい方法を主張するだけでなく、顧客の状況をよく聞いたうえで最適な提案ができる力が必要です。そして最後が「言いにくいことを言える力」で、これは信頼関係を築いていないとできないことなので、会社よりは個人の力に近いと思います。PwCコンサルティングと仕事をしていて、これら3つの力を非常にバランスよく、また幅広くサービスを提供していただけていることを実感しています。それは非常に難しいことだと分かっているがゆえに、大変価値のある関係を築けていると思っています。
坂口:3つ目の力に関して印象深いのは、貫井さんがグローバルなミーティングなどで私たちを紹介するときに、「ColleagueやOne Badge(仲間)」という表現をしてくださることです。これはコンサルタントの立場としてはすごくありがたいことで、だからこそ、言いづらいことでも最善と思える提案をお伝えできていると思います。
坂口 博哉 PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
貫井:グローバルの観点では、日立グループの売上の6割以上が海外です。海外のビジネスに大きな成長領域やポテンシャルがあるなかで、グローバルなネットワークを持つPwCコンサルティングには大きな期待をしています。世界の各エリアのPwCが、地域ごとのみならずひとつの企業として日立を捉えていただいて、より間違いのない方向に進んでいくような舵取りの支援もいただければと思っています。
内村:ありがとうございます。その期待を大きな励みに、「Multi-location(マルチロケーション)」、「Multi-language(マルチランゲージ)」、「Multi-project(マルチプロジェクト)」という「3M」の特性をもつ難度の高い取り組みにチャレンジし、グローバルに広がる支援を同時多発的に進めていきたいと考えています。日立のスピード感に負けぬよう、例えば先行投資的にフォーメーションを組むなど万全の体制を整え、 “One Hitachi”に学びながら“One PwC”で支援をさせていただきますので、引き続きよろしくお願いします。本日はありがとうございました。
貫井 清一郎(ぬくい・せいいちろう)
日立製作所 執行役常務 CIO兼ITデジタル統括本部長。1988年アーサーアンダーセンアンドカンパニー(現アクセンチュア)入社、2010年同社執行役員通信・メディア・ハイテク産業本部統括本部長。15年に日立製作所入社後、エグゼクティブITストラテジスト、未来投資本部アーバンモビリティプロジェクトリーダ、執行役常務を経て、21年から現職。
内村 公彦(うちむら・きみひこ)
PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー。大手電機機器メーカーおよび大手コンサルティングファームを経て、現職。グローバルオペレーション改革を強みとする。調達、生産、営業、マーケティング、サプライチェーンマネジメント(SCM)など多岐にわたる分野でオペレーション戦略策定や実行支援に携わり、ITシステム刷新やインフラ構築にも取り組む。特にSCMに関する講演経験が豊富。
坂口 博哉(さかぐち・ひろや)
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター。外資系コンサルティングファームを経て、現在に至る。ハイテク、製造、通信業界での事業戦略立案からバリューチェーン改革、新業務/システム構想策定(PMO支援を含む)までを一気通貫で支援。特にスタンドアローン企業の再編やトランスフォーメーション、コーポレート全体のDX推進に精通し、数多くのプロジェクトで責任者を務める。
Promoted by PwCコンサルティング合同会社text by Sei Igarashiphotographs by Shuji Gotoedited by Akio Takashiro
PwC コンサルティングはプロフェッショナルサービスファームとして、日本の未来を担いグローバルに活躍する企業と強固な信頼関係のもとで併走し、そのビジョンを共に描いている。本連載では、同社のプロフェッショナルが、未来創造に向けたイノベーションを進める企業のキーマンと対談し、それぞれの使命と存在意義について、そして望むべき未来とビジョンついて語り合う。