経済活動に伴って生じる環境負荷の低減という意識が一般的になってきた現代。近年では、自然や生物多様性が失われる流れを止め、さらには回復に反転させる“ネイチャーポジティブ”の考え方が企業経営において浸透し始めている。SMBCグループは事業と自社の取り組みの両輪で自然資本の保全・回復に取り組んでいる。その背景と目指すべき姿を各領域の担当者から話を聞いた。
環境問題に包括的アプローチで取り組む
2024年、SMBCグループは「サステナビリティレポート2024」を発行した。これは、従来からステークホルダー向けに公表していた気候変動、自然資本、人権等の取り組みに関するレポートを統合したものである。「サステナビリティレポート2024」を発行した背景について、三井住友フィナンシャルグループ社会的価値創造企画部環境社会グループ長の吉川聡一郎は次のように話す。
「環境や人権に関わるレポートを統合した背景には、SMBCグループにとって社会課題の解決が経営戦略であるという姿勢を強く示したいという思いがありました。環境問題や人権問題、貧困・格差といった課題は、密接につながっています。そこで、私たちがどのようなアプローチから諸問題の包括的な解決に取り組んでいるのか、その方針を示すことが重要であると考えました」
また、当レポートでは、環境課題の解決に向けたカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなどのテーマは相互に結びついているとし、それらと同様にネイチャーポジティブの観点も重視する方針を示している。
ネイチャーポジティブに関しては気候変動に比して比較的新しいコンセプトであるものの、国内でも企業の成長と自然資本の保全を両立する動きが徐々に広がってきた。
SMBCグループにおいても、自然資本の取り組みに対する機会やリスクの分析等について、金融機関ならではの強みを発揮して取り組みを進めている。
「SMBCグループの最大の強みは、やはり金融サービスを通じて幅広い業界との関わりがある点です。自然関連の様々なデータを分析することで、私たちの事業と自然資本との関係性を可視化できます。現状は、分析したデータをもとにお客さま、そして私たちの自然に対する依存度や影響を把握している段階にあります」
経済活動と環境問題は密接不可分な関係であり、社会や企業にとって自然資本は不可欠な存在であると強調する吉川。社会を牽引するという点において、日本全国にネットワークを持つSMBCグループが果たす役割は大きい。
「まずは私たちが自然資本に対する取り組みを発信し、現状とこれからの課題をしっかりと指し示す。そして、その中で得られた知見・経験を踏まえて自然資本保全に向けたお客さまの取り組みを支援する。こうしたプロセスが、ネイチャーポジティブの実現につながっていくと考えています」
自然に触れ合うことで環境問題を自分ごと化
自然資本の保全について説得力のある提案をするためには、先にロールモデルを示すことが重要になる。こうした思いもあり、SMBCグループは長年にわたって積極的な環境保全プログラムを実践してきた。ゴルフ場跡地を元の森に還す自然返還事業や、そのフィールドを使った環境教育事業を実施する「富良野自然塾」への支援もそのひとつ。2006年から続く支援について、三井住友フィナンシャルグループ社会的価値創造推進部 推進グループ兼事業企画グループ上席部長代理の山本美帆は次のように説明する。
「『サステナビリティ』という言葉が国内に浸透する以前から、SMBCグループでは『富良野自然塾』への支援を続けてきました。ゴルフ場の自然返還事業としては、地域住民の方々と連携して植林を実施。すでに植樹本数は8万本を超えていますが、それでも元の森を取り戻すためには膨大な時間がかかります」
地球上でゆっくりと育まれてきた豊かな環境が、人類の誕生によって急激なスピードで失われている。そして、それを回復するためには気の遠くなるような時間がかかる。こうした現状を幅広い世代に実感してもらうため、「富良野自然塾」には「地球の道」というコンテンツが設置されている。
「『地球の道』は、46億年に及ぶ地球の歴史を460mの道に置き換えて表現したコンテンツです。恐竜の登場や氷河期など、地球が歩んできた流れを模擬的に体験できます。実は、ここで人類の歴史を換算すると、たったの2cmにしかなりません。その短期間でどのように自然の豊かさが失われていったのか。新しい視点から環境について考えるきっかけを提供しています」
「地球の道」は、SMBCグループも共感する“地球は子孫から借りているもの”という思いが込められている。目先の利益を優先するのではなく、未来を意識した持続可能な経済活動が求められているのだ。実際に教育プログラムに参加した子どもたちからは、「自然を守るために、節電を心がけようと思った」「森の動物たちの命を守りたい」といったような声が寄せられ、環境への意識醸成の手ごたえを感じている。
こうした「富良野自然塾」での学びを都市部にも反映すべく、2024年には「SMBCの森」という新たな取り組みを発表した。神奈川県伊勢原市にある約220ヘクタールにも及ぶSMBCの森は、国の「自然共生サイト」にも認定されている。これは、2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保全するという国際目標「30by30」のもとに、国が「民間の取り組み等によって生物多様性の保全が図られている区域」として認定する生物多様性保全に資する地域を指す。
「SMBCグループは国の『30by30 アライアンス』にも参加しています。SMBCの森にはレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)にも掲載されているような、希少な動植物が生息している豊かな生態系が存在しているので、未来に渡っての保全が責務。また、SMBCの森でも環境教育プログラムを展開する予定です。取り組みのゴールに据えているのは、ネイチャーポジティブに対する意識の醸成。『社会的課題の解決』と聞くと、非常にスケールが大きい。しかし、実際に自然と触れ合ってみると、『この豊かさを守らなくてはならない』と身近な課題に置き換えられるようになります。このように、環境問題を“自分ごと”にしていく上で、私たちの提供するコンテンツが役に立つと考えています」
ファイナンスで社会課題解決に寄与
自社の実践的な取り組みでロールモデルを示した先に求められるのは、ステークホルダーへと波及させるための施策である。SMBCグループでは、“本業”である金融サービスを通じ、社会で環境保全を促進するための事業を幅広く展開している。その一例が「自然資本経営推進分析融資」である。この融資商品ではSMBCグループの三井住友銀行と日本総合研究所が定めた独自の基準に基づき、企業の自然資本経営に関する取り組みや情報開示を分析。今後の課題や対策案、取り組み事例などを還元することで、自然資本経営の推進に向けたサポートを行うのだという。三井住友フィナンシャルグループサステナブルソリューション部ソリューショングループ部長代理の勝田梨聖に商品の開発の背景を聞いた。
「近年、自然資本に対する取り組みが企業経営において重要であるという認識は広がりを見せています。一方で、それを評価するための指標が脱炭素領域よりも多様かつ複雑であるため、効果的な施策の検討が難しいという課題も表出しています。そうしたニーズに応えて開発したのが、『自然資本経営推進分析融資』です。企業コンサルティングにおいて多くの実績とノウハウを持つ日本総合研究所のサポートによってお客さまのコストや労力を軽減し、自然資本の取り組みへのファーストステップを後押しするねらいがありました」
専門コンサルタントを有する日本総合研究所と金融のプロフェッショナルである三井住友銀行が協力して事業をサポートするという点でも、グループが一丸となって取り組む意義があるのだと勝田は話す。
また、三井住友銀行では2024年、サーモン陸上養殖事業へのプロジェクトファイナンスも実施した。
「現在主流となっている海面養殖では、サーモンの排泄物などによる海洋汚染や生態系への影響が懸念されていますが、陸上養殖を行うこのプロジェクトはその負の影響が抑えられます。加えて、海外からの輸入に伴うCO2の削減や食の安全性・自給率の向上など、多面的に意義のある取り組みを、ファイナンスを通じて支援できたと考えています」
さらに、SMBC日興証券では、南米アマゾン地域の生物多様性保全などに資する米州開発銀行発行の債券について単独引受することを決めた。前職の国際協力機構(JICA)でパキスタン駐在時に、大洪水に見舞われ悲惨な状況を目の当たりにしたという勝田は、ファイナンスの観点から環境保全に取り組むことに幅広い可能性を見いだしている。
「このプロジェクトは、アマゾン地域の森林保全はもちろんのこと、周辺地域のインフラ 整備や住民の方々の生活水準の向上にもつながります。このように、生物多様性を含むさまざまな社会課題を掛け算して相乗効果を生みながら、課題解決に向けた資金循環を加速していく。それが金融機関ならではの自然資本の保全への取り組みであり、私たちが実現したいビジョンでもあります」
それぞれの担当領域からネイチャーボジティブの実現に向けた施策を推し進める3人。実践的な環境保全活動のみならず、融資や投資といった独自の金融サービスからも自然資本の回復を目指すSMBCグループの動きに、今後も引き続き期待が寄せられている。
SMBCグループサステナビリティサイト
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