元メルカリ日本事業責任者の青柳直樹が立ち上げたnewmo。自らもタクシー事業者として市場参入しながら、ライドシェアの普及に励む。
創業1年目にして、累計187億円を資金調達して注目を集めたのが、元メルカリ日本事業責任者の青柳直樹が立ち上げたタクシー・ライドシェア事業のnewmoだ。日本版ライドシェアは、タクシー不足の地域や曜日、時間帯に限り、タクシー会社の管理下で自家用車と一般ドライバーを活用して運送する制度として2024年4月に解禁。newmoは24年1月に創業し、3月に大阪のタクシー事業者の岸交、7月に未来都をM&Aして、7月からライドシェアを正式運行している。
異業種から日本版ライドシェアに参入する道はふたつある。ひとつは、自らタクシー事業者になる道。もうひとつは、ライドシェアサービスを展開するタクシー事業者にプラットフォームを提供するベンダーになる道だ。newmoはプラットフォーム開発も並行して手がけているが、まず選んだのは前者だった。「タクシー業界の最大の課題は圧倒的な担い手不足です。私たちがアプリだけ開発して、『人手不足はそっちで何とかしてください』では世の中が動かない。まず私たち自身がタクシー会社の新しいかたちをつくり、ショーケースとして見ていただくことで、賛同者を増やしていきたい」
今回の参入は、青柳にとって二度目の挑戦になる。ライドシェアとの出合いは、グリーの米法人トップとして米国に赴任していたころ。現地で体験し利便性を痛感させられた。16年に退職後、「次は大きくてやりがいのあるテーマがいい」とライドシェアに着目した。実は最初の挑戦時も青柳はタクシー業界の内側に入る戦略を取っている。
「参入規制が強いなら自分がタクシー事業者になって内側からルールを変えていこうと考え、実際にドライバーになるための試験を受けて2種免許も取りました。ただ、関係者に相談すると、『ライドシェアは不要』という声が圧倒的で、断念せざるをえなかった」
思いが再燃したのは23年8月だ。メルカリでフィンテック事業に没頭していたが、菅義偉元総理が「ライドシェア解禁の議論を進めるべき」と話して事態が動き始めた。
「実際に規制改革推進会議で議論が始まりますが、それまでことごとく規制に跳ね返されてきたスタートアップ側は反応が悪かった。誰も手をあげなければ、開きかけた扉がまた閉じてしまう。なら自分が手をあげるべきだと」
ただ、手をあげたのは使命感からだけではない。
「起業家の勘どころです。参入障壁が高くてほかの人が飛び込まない領域ほど、入れたときは大きな存在感を放てる」
24年7月の運行開始後は自身もドライバーとなって5回乗務し、手ごたえをつかんだ。ただ、課題もある。ドライバーは約3000人の応募があったが、10月時点の内定者は83人。応募数に対して内定者が少ないのは、サービス提供できる曜日や時間帯が限られていることが大きい。規制緩和の歩みは遅いが、青柳に焦りはない。
「フィンテック領域では短期で急成長を狙ったサービスが消え、本人確認やマネロン対策など安心して使える体制をつくったサービスが中長期で伸びました。ライドシェアも同じ。遠回りに見えるかもしれませんが、単に『アプリで便利』より、運行管理や安全管理をしっかりやって信頼を積み重ねることが正しいアプローチになるはず。しっかり責任を果たして、応援してもらえる存在を目指します」
青柳直樹◎ドイツ証券投資銀行部門を経て、グリーにて取締役CFO・米国法人CEO事業本部長、メルカリにてメルペイ代表取締役・メルカリ日本事業統括などを歴任。2024年1月にnewmoを創業した。