銀行員というイメージからかけ離れながらも、人財が輝く「りそな」の仕組みとは?
2003年、資本不足に陥ったりそな銀行が既存分を含めて3兆円を超える公的資金の注入を受け、実質国有化された「りそなショック」。金融界に衝撃を与えたこの事件によって、当然社内には痛みを伴う変革の嵐が訪れた。当時を人事部(現人財サービス部)の一員として体験し、現在は人財サービス部長の九鬼至留(写真左。以下、九鬼)が振り返る。
「賞与がなくなったり、給与がカットされたりといった対処も行われ、転職できる総合職の社員が次々と辞めていきました。とはいえ新たに採用もできない。既存の仕事をどうやって回していくのかと誰もが頭を抱えていました」
経営危機から生まれたダイバーシティの発想
今となっては、りそなグループの強みとなっているダイバーシティの風土誕生はそうした危機がきっかけだった。「それまで総合職が担っていた仕事を一般職の社員が担い、一般職の仕事をパートタイマーであるパートナー社員が担う。全従業員が一丸となって業務に当たることで、危機を乗り切ろうとしたのです」
性別、年齢、職種等にかかわらず現場を回すために、できるものが業務を遂行する。現実を乗り切るためにりそなは変わらざるをえなかった。
その後、15年に公的資金を完済するまでに、りそなは金融サービス企業としての強靭な組織を見事に構築していく。
当時の思いは今もなお、“変革のDNA”として従業員に息づいており、現在の企業風土の素地となっていると九鬼は強調する。
「どんなに能力の高い人が集まっても、モチベーションがなければ機能しません。人事制度や人事運用、人財育成にも強い思いがあってこそ、人は大きな成果を生み出すのです」
人事の仕事は言ってみれば調整役なのだと九鬼は言う。
「従業員の思いと会社の戦略的な意思をウィンウィンでつなげていく役目なのです。従業員の就労価値観も変化するなか、会社もまた考え方を変えないとモチベーションの維持すら到底かないません」
メガバンクとは異なる「りそなグループ」の特徴
フルラインの信託・不動産機能などによる「信託銀行の強み」。個人1,600万人・法人50万社の顧客基盤・ネットワークや多様なニーズに応える高度な機能などによる「メガバンクの強み」。地域密着の親しみやすさなどによる「地方銀行の強み」。こうした3つの強みを合わせもつ独自のポジションで、本邦最大の信託併営リテール商業銀行グループを形成しているりそな。そして、金融業界を取り巻く事業環境は、歴史的な転換点を迎えている。SXやDXといったメガトレンドに加えて、生成AIなどの技術革新も進んでおり、顧客課題は多様化・高度化・複雑化の一途をたどっている。そうした環境のなか、りそなの未来をかたちづくる人財戦略について九鬼は以下のように明かす。
「20年よりキャリア採用を強化しています。銀行といえば画一的で、プロパー社員ばかりのイメージがあるかもしれませんが、ここ数年はりそなの採用者の3割以上がキャリア採用です。あらゆる業種からの転職を受け入れる土壌があり、実際に23年度はキャリア採用目標210人に対して231人の実績を実現しています」
ダイバーシティ推進室長を務める黒川暁子(左ページ写真右。以下、黒川)は、性別、国籍、年代、障がいの有無、育児・介護など個人が抱えている事情にかかわらず、誰もが活躍できる職場環境づくりと多様性を受け入れる意識の醸成による「働きやすさの向上」を推進している。黒川は、他の銀行とは異なるりそなの雰囲気について以下のように語る。
「弊社は組織内が文字通りフラットで、役員も役員室でなく、私たちとデスクを並べて同じ部屋で仕事をしています。職位に関係なく誰とでも気軽にコミュニケーションを取れるのが特徴です。社長室もガラス張りで、誰が訪れているかも見ればわかる開かれた環境です。
LGBTQを含むアンコンシャスバイアス研修も定期的に行っており、23年からは就業中の服装も自由化しました。金融機関にありがちな堅苦しい雰囲気はあまり感じられません。また、職場に女性管理職がいることを誰もが当たり前のことと受け止めています。男性育休も取得率100%。キャリア採用で入られた方には、よく驚かれます」
20の複線型の人事コースで専門スキルの向上が図れる
りそなには「複線型のコース制」という重要な施策がある。21年4月より、ゼネラリストとスペシャリスト合わせて全20コースを選択できる新人事制度を導入しているのだ。九鬼が内容を説明する。「多様な人財のプロフェッショナルとしての成長や自己実現のサポートを基本的な考え方として、『複線型』をコンセプトに2種類のキャリアパスを組み合わせています。ひとつは、従来型の銀行員のイメージに近い昇格昇進で部店長を目指すゼネラリスト的なキャリアパス。もうひとつは、データサイエンティストやIT、運用、不動産、M&A、年金など専門分野に特化したスペシャリスト的なキャリアパス。基本的にはメンバーシップ型でありながら、ジョブ型の要素を取り入れたハイブリッドなシステムになっています」
各自が追求したいキャリアパスを柔軟に選択できるのが「複線型のコース制」。特筆すべきは、この制度により上司部下の関係だけではない処遇が実現していることだと九鬼は指摘する。
「基本コース(ゼネラリスト)の上司を専門コース(スペシャリスト)の部下が年収で上回ることも実際にあります。つまり、マネジメントをやりたくない場合でも、パフォーマンス次第ではきちんとした処遇を受けられる仕組みが整っているということです。スペシャリスト志望者が、昇格昇進以外で処遇アップを実現することで、モチベーションを高めていけるのです」
キャリア採用ではポテンシャル人財も求める
こうした「複線型のコース制」は、外部から即戦力の人財を獲得する狙いもあるが、それだけではない。「例えば、前職においてM&Aで実績を上げてきた人財が入社してきた場合は、はじめから相応の処遇を検討できます。一方で、私たちはそれ以前の人財にも注目したいのです。経験や実績はまだ十分ではないが、りそなでM&Aを極めていきたいというポテンシャル人財。そうした人財でも、複線型の専門コースであれば、自身の成長に合わせて高い評価と処遇を目指すことができる仕組みになっています」
最後に九鬼は、りそなグループの将来について熱く語ってくれた。
「グループ従業員約2万8,000人。従来型の銀行ビジネスであれば斜陽産業かもしれませんが、お金を軸とした金融サービス企業として考えれば、大きな可能性があるのではないでしょうか」
くき・いたる◎1995年に大和銀行(現・りそな銀行)入社。2002年に人事部へ異動し、人事制度統合や給与システム開発等の業務を担う。新川崎支店長を経て、人財サービス部長に就任。
くろかわ・あきこ◎2000年にあさひ銀行(現・りそな銀行)入社。資産運用相談業務に従事後、コンプライアンス統括部を経て、20年に人財育成部に異動、人財サービス部 ダイバーシティ推進室長に。