環境問題が深刻化する近年、大量生産・大量廃棄に代わる経済モデル・サーキュラーエコノミーの実現がグローバルで目指されている。さまざまなステークホルダーと共にビジネスモデルの抜本的な転換や新たなバリューチェーンの構築などを通じた“サーキュラーエコノミーの実現”に挑戦するSMBCグループの取り組みに迫った。
従来、持続可能な社会の実現に向けて推奨されてきた3R(リデュース、リユース、リサイクル)。3Rは、ごみの排出量を減らし、やむをえず排出されたごみについても再利用を促すための標語として提示されたものだ。廃棄を前提とした3Rに対し、サーキュラーエコノミーには「廃棄」という概念がない。生産段階から再利用を前提としたモノやサービスの設計を行い、新たな資源の消費を可能な限り抑えることが求められている。
サーキュラーエコノミーはこれまでのビジネスモデルやバリューチェーンを抜本的に変革するものであり、あらゆるステークホルダーが業界や分野を超えてネットワークを構築し、アライアンスを確立することが求められている。
サーキュラーエコノミーへの取り組みは、SMBCグループが重点課題としても掲げている「環境」「日本の再成長」をはじめとしたさまざまな領域の課題解決に資するものと捉え、その旗手となるべく、SMBCグループでは多様な施策を展開している。
例えば、三井住友銀行では顧客基盤を活用し、製造業と資源循環業のお客さま同士の引き合わせを積極的に行っている。また、日本総合研究所では、需要家を起点にEV電池の循環利用を推進する「EV電池スマートユース協議会」を組成。さらに、三井住友ファイナンス&リースとアミタホールディングスが廃棄物マネジメントシステム領域での連携を加速するなど、グループ各社で積極的な動きを見せている。
ステークホルダーをつなぎ、共に創る循環型社会
SMBCグループがサーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みを推進する背景について、三井住友フィナンシャルグループ社会的価値創造推進部 部長の馬場賢治は次のように語る。「サーキュラーエコノミーへの移行に際しては、産官学民が連携し、製品設計・ビジネスモデルの変革(産)、政策・規制の策定(官)、新技術の研究・政策提言(学)を通じた消費形態の変容(民)の実現により、バリューチェーン全体を変革していくことが重要です。SMBCグループは、全国の企業、官公庁、大学、そして個人のお客さまとの強固なネットワークを有しており、そうした接点を活用しながら、サーキュラーエコノミーに関するお客さまのニーズに応えることができます。幅広いビジネスサポートを通じ、バリューチェーン全体にとって有意義な金融ソリューションを生み出すことが私たちの使命のひとつだと考えています」
しかし、多くのステークホルダーにとって、メリットを享受できなければビジネスモデルを転換することが難しいという実情もある。サーキュラーエコノミーへの取り組みをビジネスとして実装するためには、どのような観点が必要なのだろうか。
「サーキュラーエコノミーの推進は、長い目で見れば世界規模での市場の拡大が見込まれ、日本の持続的な成長においても非常に意義のある取り組みですが、現時点では技術やコストなどのさまざまな面で課題があるのも事実です。これらの課題を乗り越えビジネスモデルの大転換を実現するには、強いリーダーシップを持つ企業が率先して取り組みを進め、持続可能なビジネスモデルを確立していく。同時に、ビジネスモデルを支えるイノベーションや、そういったビジネスに資金がいきわたるような仕組みづくりといったさまざまな要素がそろって初めて達成されるものだと考えます」
環境課題への「意識」と「機会」を流通させる
サーキュラーエコノミーをはじめ、持続可能な社会の実現を目指すために必要なバリューチェーンの連携。そうした“つながり”を創出する場所として、SMBCグループは2020年に「GREEN×GLOBE Partners」(以下、GGP)を設立した。GGPの運営を担当する三井住友フィナンシャルグループ社会的価値創造推進部事業企画グループの東ななは、GGPが当初の役割を超えたコミュニティに変化しつつあると語る。
「GGPは、環境・社会課題の解決を図る仲間づくりの場として設立されました。当初は主に情報発信の場として機能していましたが、認知度が高まるにつれオフラインでのミーティングも増加しました。現在では具体的なアクションを進めているパートナーもいます。パートナーの数は1,800を超え、ベンチャー企業・中小企業・大企業・自治体・大学など、幅広い企業・団体が集まる場になりました」
サーキュラーエコノミーの推進もGGPが重要視している環境・社会課題のひとつ。東の実感として、サーキュラーエコノミーは現在進行形で認知が広がっているタイミングにあり、ビジネスへの実装を含めて各企業の関心が高まりを見せているトピックなのだと語る。
資源循環プロセスをビジネス化した企業
2024年10月10日に開催されたイベント「サーキュラーエコノミーと分解者たち」は、「SMBC Sustainability Forum2024」の一環として、GGPとクリエイティブ・カンパニー「ロフトワーク」の共催によるもの。このイベントでは、サーキュラーエコノミーを「分解」という切り口で捉え、これまでにない技術やデザインで資源循環プロセスをビジネススキーム化した企業の取り組み事例を紹介した。最初に登壇したのはASTRA FOOD PLANの加納千裕。同社では、規格外や生産余剰、残渣(ざんさ)として捨てられている農作物などを過熱水蒸気技術によってパウダー化。新たな食品原料として生まれ変わらせることで、食品廃棄率を低減させる事業に取り組んでいる。
加納は、商品となった食品の廃棄は減少傾向にあるものの、生産段階で廃棄される農作物などの“かくれフードロス”が依然として問題であると指摘。そこで、ASTRA FOOD PLANでは、契約先の食品工場に加工装置を設置。これにより、顧客は残渣を栄養価の高い食品パウダーに加工することで廃棄コストを削減すると同時に、環境配慮の取り組みとしてPR効果も期待できる。
同社はパウダー化した食品を買い取り、「ぐるりこ®」(循環型を作る粉の意)とネーミングした商品として販売する事業も展開しており、循環型ビジネスモデルを実現。加納のプレゼンテーションが終わると、会場から大きな拍手が起こった。
続いて、一般社団法人シモキタ園藝部の理事を務める川崎光克が登壇。同団体は東京・下北沢近辺の植栽管理に加え、ハーブティー販売や、植栽基礎講座の開催など、多岐にわたる活動を展開している。
川崎は、「人間の経済活動によって排出される残渣は、使い方次第で宝の山になります。シモキタ園藝部では植栽管理の中で発生する雑草や枝葉をコンポスト(堆肥)として再利用しています」と語った。
川崎によると、シモキタ園藝部と提携し、生ごみを堆肥として提供する飲食店が昨今増加しているとのこと。都市部の残渣を緑地の資源として再利用することで、都市と緑地の間で人の“循環”も生まれていると発表を締め括った。
最後に登壇したのは、BIOTA代表取締役の伊藤光平。伊藤は高校時代に慶應義塾大学の先端生命科学研究所で特別研究生として研究に従事し、慶應義塾大学卒業後にBIOTAを創業した。
「空間中の微生物の多様性を高めることで、持続可能に公衆衛生を改善効果できます。そのためにゲノム解析技術を用いて環境中の複雑な微生物コミュニティを評価し、建築や緑地設計などの都市デザインに取り組んでいます」(伊藤)
伊藤は、人間がモノの捨て方・手放し方を工夫すれば、人間以外の生きものもより豊かにできる、と述べ、サーキュラーエコノミーの実現に向けた新しい挑戦として、人間の経済圏を超え他の生物もステークホルダーとして巻き込んだ“物質の循環”を意識する重要性を強調した。
プレゼンテーション終了後、現地会場ではゲストスピーカーの3名を交えたワークショップも開催された。さまざまな人と人が出会い、熱気に包まれる会場。このように、GGPは人々が“循環”する機会を提供し、新たなビジネス共創のチャンスを生み出している。
多様な取り組みを通じて、社会と企業への貢献を目指すGGP。今後のビジョンについて東に聞いた。
「社会課題はさまざまな領域に拡大し一層複雑化しており、一社や一個人だけで解決することはできません。GGPは、5年目を迎える今だからこそあらゆる領域のパートナーがそれぞれの知恵を持ち寄り、社会課題の解決に本気で取り組む場としての存在意義をより高めていきたいと考えています。従来の情報発信・ネットワーキングの取り組みは継続して行っていくほか、パートナー同士の事業共創にとどまらず、パートナー自身の変革をも後押しする仕掛けづくりを加速させていきます。
こうしたGGPの活動が、SMBCグループが取り組むさまざまな社会的価値創造に関する施策との相乗効果を生み出し、より多くの社会課題を解決するためのきっかけになると信じています。GGPを社会的価値創造のプラットフォームとして世の中に広め、より大きな社会的インパクトを創出していことが、『社会的価値創造』に挑み続けるSMBCグループが果たす役割であると考えています」
─ 登壇企業・団体概要 ─
ASTRA FOOD PLAN株式会社
シモキタ園藝部
BIOTA inc.