まとめ
前回の記事では、日本のビジネスパーソンが今後国際的な舞台で活躍する中で、通訳者との関係性構築が円滑な国際コミュニケーションの鍵となることを述べた。
同じ内容を伝えるとしても、その方法は人それぞれ異なり、発話者の意図を瞬時に把握するのは常に簡単であるわけではない。特に国際コミュニケーションでは、質問や発言の意図が明確にされないままコミュニケーションが進むと、同じ内容の質疑が繰り返されることがある。そうしたシーンを経験した読者も少なくないのではないだろうか。筆者自身もそのような場面を見てきた。
あとで議事録を何度か読み返すと、質問の意図がより明確になることが多くあるが、これは疑似的な「経験値」を重ねることで初めて見えてくるものなのである。
今後、国際的なコミュニケーションの機会が増える中、通訳者のスタイルを理解し、予算と時間が許す限り、入念な事前打ち合わせを行うことが国際コミュニケーションをより円滑に進める鍵の一つとなるだろう。
また、今回見たように、すでに高いレベルの通訳を提供できる技量を持っていたアイアトン氏でさえ、経験値によって洞察を深めているのだ。だからこそ、可能な限り、通訳者に「経験値」を積む機会を提供することが重要だ。すなわち、アイアトン氏が重ねたような現場での体験だけでなく、過去の議事録や類似の会議内容の記録を事前に通訳者に共有し、内容や意図を把握してもらう。そんな事前準備も、円滑な国際コミュニケーションの鍵の一つになる。ビジネスパーソン読者諸氏にとって、この記事が国際ビジネスの成功へのヒントとなれば幸いである。
松樹悠太朗(まつき・ゆうたろう)◎1978年香港生まれ。国際交渉のコンサルティングを行うYouWorld代表取締役。特徴的な技術は、日本語と英語の行間や作法の違いによるコミュニケーションのニュアンスを調整すること。特に国際交渉の軌道修正、効果的な英文Eメール、プレゼン資料の修正において成果を上げている。クライアントはスタートアップCEO、金融機関取締役、日系商社支社長、製薬関連企業代表、日本刃物ブランドなど。