その3:必要がなければ内容の順序を入れ替えない
最後にもう一つ、アイアトン氏らしい丁寧な「直訳スタイル」を見ていこう。
大谷選手がワールドシリーズ第2戦で肩を亜脱臼してしまったことへの質問だ。怪我をしてからの第3戦から第5戦までの戦いに、どの程度の(試合に出場する)責任を感じていたかという問いである。
この質問に対して大谷選手は、怪我をした直後はワールドシリーズの欠場を覚悟したものの、戦いには大谷選手が必要だとチームが言ってくれたことが、最後までプレーを続ける気持ちにさせてくれた、という返答をしていた。
この返答に対し、アイアトン氏は丁寧に「直訳スタイル」で通訳をした。さらに、大谷選手の返答が英語でも「背景・本論・結論」という流れで不自然さがなかったため、この時は、コメント内容の順番を入れ替えることをせずに通訳を行っていた。
このインタビューを紐解くと、「直訳スタイル」に徹しつつも、大谷選手の返答が英語で不自然にならないよう配慮し、必要がなければ内容の順序を入れ替えずに通訳していることがわかってくる。
アイアトン氏がワンシーズンにわたり大谷選手の通訳を務める中、メディアの質問や大谷選手の返答における「経験値」を蓄積することで、彼の通訳スタイルが、「直訳スタイル」を保ちながらも、英語と日本語間のコミュニケーションをより円滑にするために「行間を整える」スタイルに徐々に進化したと考えることができるだろう。
さらにこのことは、別の見方をすれば、質問者、回答者の意図への理解は「経験値」によって得られるところが大きい、ということであるとも言えるだろう。
そしてこのことは、アイアトン氏のように、英語と日本語ともに高いレベルの語学力を持ち、本人自身に業界知識(この場合、野球経験)が豊富にあると伝えられている通訳者であっても真実なのである。
参考動画:https://youtu.be/OkfKZYeTbKM?si=ezYsMYCpJbW1Cu9-