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2024.11.21 16:00

刃物、船舶、南部鉄器——「変えるのではなく、アップデートを」産業、組織の文化を未来につなぐカルチャーイントレプレナーたちの挑戦

Forbes JAPANでは、継承者不足や斜陽にあえぐ日本の伝統技術や工芸の領域にあって、新たなビジネスを展開することで文化資産の価値や世界をアップデートしようとする起業家たちを「カルチャープレナー(文化起業家)」と呼び、取り上げてきた。

このコンセプトを踏まえ、企業に所属しながら日本独自の文化や技術に新しい価値やエコシステムをつくろうと挑戦を続ける社内起業家たちを新たに「カルチャーイントレプレナー」と総称。そして同コンセプトに共感したのが、日本で最も歴史のある総合不動産会社・東京建物だ。同社は、江戸城や武家屋敷の調度品や設えのために日本全国からものづくり職人などが集まり、歌川広重や狩野派なども拠点を置き芸術文化が花開いた八重洲・日本橋・京橋、それぞれの頭文字を取って、現在は「YNK(インク)」エリアとも呼ばれるエリアに100年超にわたって本社を構え続けている。YNKエリアは同時に、日本でもっとも大企業が多く集結する街でもあり、世界を代表するビジネス拠点となっている。

2023年にForbes JAPAN別冊「ようこそ、世界に誇る縁(Enishi)エコシステムへ」を発刊するなど、世界屈指のサステナブル・タウンであるYNKエリアに着目してきたForbes JAPANと東京建物。両者はこの度「CULTURE INTORE-PRENEUR YNK 特別賞」として、一般社団法人カルチャープレナーコレクティブズ理事・佐宗邦威や早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄ら6名の審査員とともに、カルチャーイントレプレナー3組に特別賞を授与した。彼らは、文化を継承し、新たな挑戦をし続けるためにどのような変革を組織内で起こしてきたのか。その価値や困難さ、またYNKエリアへの期待について語り合った。


文化を守り続けるために産業、組織の変革を
イントレプレナーだからこそのイノベーション

まずは、2024年の企業や伝統文化の中で新たな挑戦を続ける「カルチャーイントレプレナー」特別賞の受賞者を紹介していきたい。

1908年の創業以来、グローバル刃物メーカーとして不動の地位を築いてきた貝印は、世界初となる「紙カミソリ®」を開発。本プロジェクトを代表就任前に牽引したのが貝印 代表取締役社長の遠藤浩彰であり、カミソリ=プラスチック製というイメージを変え、海外からは「Origami Razor」として注目を集めている。

タヤマスタジオ 代表取締役・田山貴紘は、約400年に及ぶ歴史を持つ日本の伝統工芸「南部鉄器」において、現代に合わせた修行のあり方を模索し、AIや・DXを活用した持続可能な若手職人育成の仕組み「あかいりんごプロジェクト」を立ち上げた。伝統産業のなかで構造改革を起こそうとする姿がカルチャーイントレプレナーとして評価された。

大手海運会社の日本郵船にて、イノベーション推進グループの寿賀大輔らが挑んだのは、宇宙事業だ。自社の起業家育成プログラム「NYKデジタルアカデミー」より新規事業として立ち上げられた宇宙事業ファウンダーズでは、自社の持つ「船」の知見やノウハウと「宇宙」をかけ合わせ、ロケットを洋上で回収する「ロケット洋上回収船」事業を計画し、JAXAとの共同研究プログラムにも採択された。

今回、カルチャーイントレプレナーとして選ばれた三者が、一堂に会することとなった。

否定するのではなく巻き込み、共に挑む
伝統文化を持続可能なものにするアップデートとは

——まずは皆さんが企業や伝統産業内で変革を進めることとなったきっかけを教えてください。

貝印 遠藤浩彰(以下、遠藤):弊社は4代続くファミリービジネスとして刃物生産を手がけ、事業承継のタイミングで会社の持続可能性を踏まえた新たな方向性を示さなければならないと感じていました。弊社の歴史を紐解くと、刃物をコアにしながらも時代や環境の変化に合わせて新たな挑戦を続け、事業の柱として育っていくものがあれば役目を終えたものもある。そのため、次世代に向けた挑戦や会社全体でチャレンジを奨励する文化づくりという課題感は常にありました。
貝印 代表取締役社長 遠藤浩彰

貝印 代表取締役社長 遠藤浩彰

日本郵船 寿賀大輔(以下、寿賀):我々宇宙事業ファウンダーズは、社内の新規事業プログラム「NYKデジタルアカデミー」で出会った3人で構成されており、それぞれが中国やシンガポールへの駐在経験から、アジアの経済成長とビジネスのスピード感に危機感を抱いていました。特に、当社の基軸たる輸送ビジネスはマーケットに左右される面も大きい。組織の新陳代謝を起こすための新規事業として、3人共通の興味分野であった「宇宙」に着目し、当社の強みである「船舶」とかけ合わせて競争優位性を得ようと考えたのです。

タヤマスタジオ 田山貴紘(以下、田山):南部鉄器は時代とともに斜陽となり、40年前と比べて現在の売上規模や従事者は約1/8にまで落ち込んでいます。父親が職人だった私も一時は東京で営業職をしていましたが、職人×ビジネスを上手くかけ合わせることで伝統文化のシステムや価値をアップデートできると考えました。そこで、2013年にUターンして職人修業を始めるとともに、職人育成プロジェクトを手がけるようになったのです。

企業や伝統文化のなかで変革を起こすにあたっては、既存のものを「変える」という、否定のプロセスが必ず入ります。しかし、過去の否定などは特に職人からは厳しい態度で迎えられることが多い。特に、職人は言語よりもむしろ実際の成果や行動で示すスタイルでもあります。そこで、より早く変革を起こすために重要なのは自分で責任を持ってすべてを受け入れることだと考え、父親にも知らせないまま当社を立ち上げ、新たな挑戦に臨む姿を具現化するよう努めました。ひとつの組織内で物事を変えようとすると時間や費用といったコストがかかり、衝突も起こりがちです。しかし、別の組織として同じ方向を見ることで、細かい意見の相違はあっても、「職人育成の必要性」というイシューは全員が同意できる。そうやって我々の挑戦を形として見せることで賛同者も増え、徐々に受け入れられ始めています。
タヤマスタジオ 代表取締役 田山貴紘

タヤマスタジオ 代表取締役 田山貴紘

遠藤:田山さんもおっしゃるように、変革は、どうしても過去の否定ととらわれてしまいます。しかし、時代や環境に合わせたアップデートは絶対に必要なので、私たちは直面する課題を「これから良くなるための伸びしろ」と言い換えています。経営者はつい早く結果を求めてしまいますが、丁寧に説明して職人にも腹落ちしてもらうことが重要で、この腹落ちや温度感といったスピードコントロールには気を使っています。

寿賀:事業領域こそ違いますが、変革で悩むポイントはまったく同じですね。我々の宇宙事業は、当初あくまでも課外活動的に捉えられていました。しかし、宇宙事業を手がける他社へのヒアリングを続けるなかで、三菱重工殿との縁からJAXAの革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラムに公募、採択されたことで日経新聞の一面に当社の名前が掲載されるという既成事実ができたのです。コロナ禍を経た上での投資タイミングといったさまざまな好機が重なった結果、この既成事実をもって会社としての本格的な事業化検討へと結び付きました。

遠藤:変革を進めるなかで、外部からの応援の声というのはとても重要なファクタです。我々の「紙カミソリ®」は、普段商品企画に関わらない若いメンバーをチームに入れたり、量産ラインを前提とせずにプロトタイプ制作から始めたりと、弊社としてはイレギュラーな形で開発を進めました。そうやっていろんな人の声やフィードバックを発展させることで、サスティナビリティといった新たな視点やアイディアを取り入れられたのです。

産業を盛り上げ、守り抜く——
そのために必要なイノベーションエコシステムへの期待

寿賀:おふたりは伝統文化や工芸を担っていますが、造船もまた日本の昔からの産業でありながら世界シェアや専門学部の減少といった状況に悩まされています。こうしたなかで、海事産業と別の産業、ビジネスを組み合わせることで業界全体を元気にし、最終的に産業を守って発展する形にしたい。産業に関わる全員が幸せになるような仕組みづくりをしなければ、いずれ限界がやってきてしまいます。
日本郵船 宇宙事業ファウンダーズ 寿賀大輔

日本郵船 宇宙事業ファウンダーズ 寿賀大輔

遠藤:昔から完全分業体制を取っていた刃物産業は、地域の産業構造として成立している部分も大きかった。そこで弊社では近年、身の周りの刃物を作る職人「野鍛冶」の技術を承継するプロジェクトを始めています。そのほか、大学と連携して学ぶ場をつくるような取り組みも実施しており、刃物の総合メーカーとして産業全体を盛り上げていくことの必要性は強く感じます。

田山:伝統文化や技術は、社会との距離が離れている印象や実感を持つ方が多いでしょう。しかし、それらを社会に組み込まなければ持続することは難しく、その意味でビジネスは重要です。日本のスポーツがビジネスとしての仕組みを導入することで環境が整備され、世界の強豪となって持続可能性を担保したように、伝統文化においてもビジネスを考えていかなければなりません。現在は人材だけでなく職人が使う道具の調達といったサプライチェーンの問題もあり、包括するエコシステムを作っていく必要がある。ビジネスの視点から学べることは数多くありますし、僕らがチャレンジすることで若者にも挑戦の気運を持ってもらえるといいですね。

——最後に、カルチャーイントレプレナーとして、皆さんがYNKエリアにどのような期待をもっておられるのか教えてください。

遠藤:変革を起こす際に、伝統と革新の共存は絶対に外せません。伝統と革新が混じり合う場所として絶えずアップデートを続けていけば、人を惹きつける魅力的なサイクルが生じる場になるはずです。

田山:日本はこれまでも輸入した大陸の文化を独自に発展させ、独特な文化として育んできました。身体の組織が新陳代謝で入れ替わるように、文化にはエコシステムのなかでなくなるものもあれば、次世代につながるものだって生まれてくる。このYNKエリアからはまさにそんなカルチャーが生まれてくる予感がするので、僕らは地方でその様子を見ながら励んでいきたいですね。

寿賀:YNKエリアを訪れた海外の友人は、高層ビルのすぐ隣で文化の香りを残す老舗や路地、ときには祭りなどが共存する町並みは非常に新鮮で魅力的だと話します。東京駅を含めたYNKエリアは伝統文化が息づく地方にも開かれた文化の窓口でもあるので、ここからビジネスや文化が動く基点となるような面白い街になってほしいです。

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ビジネスや文化、あるいは都市において、いつの時代も長く地に根付いたモノや価値を継承していきながら、変革し続けることが求められている。カルチャーイントレプレナーやYNKエリアの姿は、これから挑戦する人たちにとって、先を行く道標となってくれるだろう。

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Promoted by 東京建物 / text by Michi Sugawara / edited by Miki Chigira / photographs by Yutaro Yamaguchi