亡くなったのはスーザン・マクゴーワン(58歳)で、死因は多臓器不全、敗血性ショック、膵炎だ。しかし死亡診断書には、米製薬会社Eli Lilly(イーライリリー)の肥満症治療薬であるチルゼパチドも一因として記されていたと、BBCが報じている。
マクゴーワンの死亡例は、正式にチルゼパチドと関連付けられた英国初のケースだと考えられている。チルゼパチドは、2型糖尿病治療薬としての商品名は「マンジャロ」、肥満症治療薬としての商品名は「ゼップバウンド」だ(米国で販売中)。
BBCによればマクゴーワンは、低用量のチルゼパチドを約2週間で2度使用した。オンライン薬局で、処方薬として購入していたものだった。
2度目の使用後に、マクゴーワンは吐き気と激しい腹痛に襲われ、自らが働いていたユニバーシティ・ホスピタル・モンクランズで、同僚の医師による治療を受けた。スコットランド中南部ノース・ラナークシャーのエイドリーにあるこの病院は、マクゴーワンが30年以上看護師として働いていた勤務先だ。
マクゴーワンは数日後に、深刻な腎障害を発症し、昏睡状態に陥った。のちに、ほかの臓器も機能不全を起こした。
チルゼパチドとは
チルゼパチドは、満腹感を高めて食欲を抑制する新減量薬の一つで、「売れに売れている」。チルゼパチドは、「GLP-1受容体作動薬(血糖値を下げる働きをもつホルモンGLP-1を補うための薬)」だ。製薬会社Novo Nordisk(ノボ・ノルディスク)の糖尿病治療薬「オゼンピック(肥満症治療薬としての名称はウゴービ)」と同じような作用がある。
オゼンピック(GLP-1受容体作動薬セマグルチド)は、2019年以降に英国で発生した20数件の死亡事故に関与している疑いがある。とはいえ、死亡したのはオゼンピック使用者のごく一部だ。
セマグルチドと同様に、チルゼパチドも、減量と、2型糖尿病治療に効果がある。
しかし、副作用として、嘔吐や下痢、吐き気などの症状が現れる場合がある。また、強度のアレルギー反応や腎疾患、深刻な胃疾患、甲状腺腫瘍といった症状もまれにみられる。
重度の副作用が生じるケースは比較的少なく、規制当局によれば、薬剤で得られるメリットが既知のリスクを上回るという。
英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は2023年11月、体重管理と減量を目的としたマンジャロ(チルゼパチド)の使用を承認した。MHRAでは、薬剤などの副反応事例を報告する「イエローカード制度」を通じて、有害事象を記録している。