現代を生きる若者たちに「生きるための武器」を
主人公らが立ち上げた会社の名前「アーセナル」は、「武器庫」という意味を持つ。作中で、甲斐は自分たちの事業を通して、「若者たちに“武器”を与えたい」という起業方針を語る。それは、あさの自身の思いとも重なる部分だ。「ここでの“武器”とは、人を傷つけたり殺したりできる道具ではなく、自分を守ったり、前に進んだり、生きるために必要なものという意味です。その武器は人それぞれ違っていて、私にとっては“書く”ことだし、ある人にとっては歌うこと、表現すること、思考することかもしれない。いずれにしても、外から与えられた道具ではなくて、自分のうちにあるものだと思うんです。起業もその一つで、自分の思いを現実の中で具体化していくための武器になると思います」
本作では、重みではなく「軽やかさ」がもてはやされるようなSNS社会で、生きづらさを抱える現代の若者たちを細やかに描写した。過去作品でも、思春期の少年少女の心の葛藤や成長を描いてきたあさのは、今の社会を生きる若者たちをどのように見ているのだろうか。
「日本国内では『閉塞感』『未来の暗さ』といったことが、よく言われると思うんです。確かに、少子高齢化や経済格差の問題も山積みではある。でも、そこに惑わされてほしくない。『今が閉塞の時代だ』と信じてしまえば、本当にそうなってしまうから」
ただ、「それを打破するのは若い人たち」という陳腐な言葉にも騙されないでほしいという。
「こういう時代だからこそ、『自分はどのように生きたいか』を思考することが大事だと思うんです。ものすごく大きなことじゃなくっていい。『私はこういう大学に進みたいんだ』『こういう専門学校に進みたいんだ』で構わないし、『こういう未来を描いているんだ』って考えるだけでもいい。私たち名もない人間は簡単に数字に置き換えられてしまいます。戦死者が何万人とか、高齢者が何十万人になったとか。でも、人間には個々の物語が必ずある。そのあなたしか持ち得ない物語を絶対に手放さないでほしいですね」